kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

民民・玉木分派の「減税真理教」はMMT理論とは無関係で歴史的に誤りが証明された1980年の「レーガン経済学」の焼き直し。ただMMTには右派に悪用されやすい弱点もありそう

 元連合専従のレバ子氏は、私が「近寄らないようにしていた」MMT界隈について以前からずっと流れを追い続けていたようだ。そのことだけでも感服する。

 というのは、あの界隈の議論の流れはなかなか一般レベルに降りてこないからだ。

 

 

 「再分配の理論になり得ない」というか、再分配をスルーして、富裕層や大企業が全くダメージを受けない形で政策を打ち出すことができるということかな。それを臆面もなく露骨な形でやって、東京などの「若年層のサラリーマン」たちに大ウケしているのが今の国民民主党(民民)の玉木分派だと思う。

 

 

 そういえばかつてはベーシックインカムがよく言われていた。2012年衆院選で橋下徹の日本維新の会が取り入れていた一方、宇野経済学(マルクス系)の伊藤誠(1936-2023)なんかも言ってたっけね。

 

 

 

 ネット検索をかけると、クルーグマンがMMTを支持していると言っている人もいるが、MMTの本の監訳者は「クルーグマンはMMTを理解しないで批判している」なんて書いているようだから*1、やはり批判しているのだろう。なお、その監訳者(島倉原)は

 商品貨幣論あるいは物々交換の発想からすれば、金融緩和によってモノとしての貨幣の量を増やせば、市場にあふれた貨幣の価値は下がり、つまりインフレになります。同様に、国債という政府の債務証書を大量に発行すれば、国債は暴落して金利が上昇するはずです。ですが、政府債務残高のGDP比が世界最高水準なのに日本の国債金利は史上最低水準ですし、大規模な金融緩和で通貨が大量発行されているのにデフレが続いています。ケルトンが「日本は(MMTの正しさを証明する)格好の事例である」と述べたのは、そうした事実を踏まえてのことです。

と書いている*2。上記文章の後半は以前弊ブログのコメント欄で教えていただいた通りだ。つまり、日本という実例がMMTの正しさを例証していたはずだった。しかし、日本の物価は2021年を底に上昇へと転じ*3、生活苦を訴える人が増えた。そして皮肉にも、そのことが民民の支持率爆上げを呼び込んだのではないかと思われる。

 それにしても困ったものなのは、ノーベル経済学賞を獲った学者が「MMT理論を理解していない」という監訳者の言い草であって、こういうのが読み手に「近寄りたくない」という気を起こさせる、これぞ経済学界隈の悪弊なんだよなあと思いながらも、我慢してその連載の第1回に目を通してみた。

 

www.data-max.co.jp

 

 そこには下記のように書かれている。

 

 『MMT入門』の帯にもあるように、MMTの主張として、以下の3点があげられます。1つ目は、日本や米国のように「通貨主権」を有する政府は、「自国通貨建て」で支出する能力に制約はないというものです。

 

 「通貨主権」とは、自国通貨を固定レートで金(きん)や外貨と交換する約束をしていない、すなわち変動為替相場制を採用していることを意味します。こうした政府は自国通貨をいくらでも発行できるので、デフォルト(債務不履行)を強いられるリスクはありません。従って、「財政赤字や国債残高を気にするのは無意味」という結論になるのです。

 

 次に、政府にとって、「税金は財源ではなく、国債は資金調達手段ではない」というものです。一般的には、政府は税金や国債発行によって通貨を入手し、それを支出に回していると考えられています。しかしながら、その通貨は、発行主体である政府がその前に支出を行わなければ、世の中に存在しないものです。

 

 従って、政府が先に通貨を支出しない限り、民間部門は税金を納めることも、国債を購入することも論理的に不可能である、というのがこの命題が意味するところです。さらにここから、「税金は所得、国債は金利に働きかけ、経済を適正水準に調整するための政策手段」という結論が導き出されます。

 

 ここまでは、現実を説明する理論としてのMMTです。3つ目は、経済政策論としてのMMTの主張です。人々の経済的満足と安定した社会を実現するため、政府は「完全雇用と物価安定」という公共目的を追求すべきであるというのが、MMTの主張です。そして、通貨主権を有する政府には自国通貨建てで無限の支出能力があります。MMTはこのことから、政府自らが「最後の雇い手」となり、希望する人々全員を、一定以上の賃金で雇うことを約束する「就業保証プログラム」の実施を提唱しています。

 

 就業保証プログラムの下では、不景気で失業者が多い時には政府が雇用を増やして経済の支えとなり、好景気の時には政府による雇用が自然と減って経済の過熱を抑制することになります。MMTはこのことから、就業保証プログラムを「強力な経済安定装置」と位置付けています。

 

URL: https://www.data-max.co.jp/article/32497

 

 「税金は財源ではない」という有名なフレーズは書かれているが、そこから導き出される結論は「税金は所得を適正水準に調整するための政策手段」だ。

 つまり「税金は財源ではない。故に、政府は国民から税金をとるべきではない」などとは言っていない。減税だの(北朝鮮ばりの)無税国家だのはMMTの理論からは出てこないということだ。それを無理やりに短絡させたのが民民の玉木分派であって、それを招いた遠因は山本太郎が作ったということができる。一方で、MMTは再分配には何も言っていないので、右派につけ込まれやすい性質を最初から持っていたともいえる。実際に前記監訳者の島倉原氏が出している人名も、下記の連載第2回からの引用に見る通り、三橋貴明や藤井聡、中野剛志など右系の論者ばかりだ。島倉氏も右系人士の一人と推測される。

 

www.data-max.co.jp

 

MMTのルーツはケインズ経済学

 

 ――島倉さんご自身も言論活動を行われていますね。

 

 島倉 私が言論活動を始めたのは2011年からです。最初は単なるブロガーでしたが、14年に経済評論家の三橋貴明さんが主宰するメルマガの執筆陣に加わるなど、徐々に活動の幅が広がっていきました。そうした活動のなかで書きためたものを本にしたいと考え、15年に『積極財政宣言 ―なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論)を出版しました。同書の原稿をメルマガ執筆者の1人でもある京都大学の藤井聡先生に見ていただいたことがきっかけで、同じく15年に、社会人ドクターとして京都大学の博士後期課程に入学しました。

 

 私の言論活動の基本は、理論だけではなく現実のデータに基づいて、何が問題なのか、そして解決策として何が正しいのかを分析、指摘することです。日本経済は過去20年余り、名目GDPが増えず、デフレが続いています。こんな国はほかにありません。さまざまなデータを調べてみると、その原因が長年にわたる財政支出の抑制、すなわち緊縮財政であることが明らかになりました。ただし、こうした見解は決して多数派ではありません。

 

 ――MMTとの出会いは?

 

 島倉 実は、『積極財政宣言』を出したころは、MMTの存在はまったく知りませんでした。「機能的財政論」を唱えたアメリカの経済学者アバ・ラーナーについて調べていた16年ごろにランダル・レイの存在を知り、『MMT入門』の原著を読んだのが始まりです。ラーナーはジョン・メイナード・ケインズの弟子にあたり、機能的財政論は、政策論としてのMMTの原型ともいうべきものです。

 

 『MMT入門』の翻訳の話は1年以上前から検討されていました。ただ、私自身が関わるようになったのは今年の春からです。最初は原稿の大まかなチェックをお手伝いするだけでしたが、最終的には監訳というカタチで関わることになりました。

 

 ――日本でのMMTの紹介者は中野剛志先生ですか?

 

 島倉 MMTというまとまったカタチで日本で紹介した書籍は、中野さんが16年に出版された『富国と強兵』(東洋経済新報社)が恐らく最初だと思います。ただ、MMTが属するポスト・ケインジアン(ケインズ理論の後継学派)関連の専門書でも断片的ながら紹介はされていて、たとえば09年に翻訳出版された『ポスト・ケインズ派の経済理論』(J・E・キング編、多賀出版)では、レイを始めステファニー・ケルトンやビル・ミッチェルなど複数のMMT論者が共同執筆者として参加し、「MMT」という名称は使わずに、その理論を概略的に解説しています。

 

URL: https://www.data-max.co.jp/article/32503

 

 なるほど、だから日本では人脈によってMMTが保守系や右翼系と結びつきやすかったのかもしれない。山本太郎にしても「保守ど真ん中」を自認する人だし、大平正芳を敬愛しているらしい玉木雄一郎は言うに及ばずだ。そして、その理論の骨格において再分配をスルーすることが可能であることが、なおさら右派を呼び込みやすい原因になっているのではないか。

 さらに興味深いのがレバ子氏の下記noteだ。

 

note.com

 

 以下引用する。

 

呪術 自由 アナキズム

レバ子

2024年12月30日 07:10

 

 減税すれば逆に税収は増え、財政は均衡するというアメリカ大統領候補に後に大統領となるアメリカ共和党のジョージ・ブッシュ候補は「おまじないで奇跡を起こそうとしている」とこうした主張を批判しました。ブッシュ候補は元々経済政策というより軍事政策に一家言ある人で、当時の減税で税収を増やすという話は経済学者に多くの批判を浴びていたのを乗っかったという印象だったと言われました。いわゆるレーガノミクスを唱えたロナルド・レーガンは大衆の支持を得て圧勝し、軍事費増加と大規模な減税が行われた結果、巨額の財政赤字と累積債務を残しました。雇用が増えたのは、確かです。ただ貧困率は子供の教育費を捻出できない家庭に直撃し、貧困の連鎖を生み、福祉削減路線もレーガン政権の後半期には修正し始めました。アメリカは軍人の地位が高い国です。レーガン政権にとってそうした軍人年金まで手をつけるのは、相当のダメージを背負わないといけないものでした。その後大統領になったジョージ・ブッシュはレーガン路線を踏襲はしつつも、やはり増税には踏み切らねばならず、2期目を目指した大統領選挙においてニュー・デモクラッツの代表格ビル・クリントンに完敗しています。

 

 レーガノミクスはケインズ経済学の批判から生まれたものですが、目指す先はケインズと同じであったはずでした。ただこうした財源を自ら絞り切るやり方では、新たな雇用を生めても、貧困層も稼げる経済政策にならなくなった結果、アメリカ経済は双子の赤字に苦しむ事になりました。国債に頼るという事は高金利を維持し続ける事と同義です。ただこうしたレーガノミクスの後遺症に悩むアメリカを横目にし、ドル安円高政策のおかげでバブル経済を迎えた日本です。その中身も実態のない好景気に過ぎなかったのですが、有り余る余剰資金を持って日本経済はグローバル社会の中で猛威を振るいますが、弾けた瞬間に長いデフレに苦しむ事になります。経済政策は結局として、好む好まざるを別として海外の状況に敏感でなければならないという一国主義というものは破綻したのですが、ドナルド・トランプの登場がアメリカの保守派をよくも悪い意味においても、レーガン路線を支持しなくなりつつあります。減税と共に軍事費を増やすというのがレーガン流でしたが、アメリカ保守はその路線を下ろし正しいかどうかは別として経済優先になりつつある。そういう意味において、トランプは池田勇人に近いです。

 

 さてここで一つの仮説があります。国債によって軍事費に費やしたレーガン政権は財政赤字に苦しみましたが、これを別の事に使えばどうなるのか?例えば環境政策に・・という発想の転換がいわゆる「現代貨幣理論」を生みました。独自通貨を持つ国は債務返済のための自国通貨発行額に制約を受けないため、借金をいくらしても財政破綻は起きない。簡単に言えば国の予算はお札を刷れば、別に国家財政はパンクしない。ならいくらでもお札を刷ってしまおう。インフレだけには気をつけながら。というのがその根幹でもありました。元々右翼のレーガン政権の考えをアレンジし、急進左翼の理論にした「現代貨幣理論」。ただ元々右派のものであったため、そのイデオロギーは簡単に利用されてしまう。

 

現代貨幣理論の黎明

 

 マルクス・レーニン主義は崩壊後、いわゆる「第三の道」路線として海外含めた社会主義政党は多くの国で社会主義の理論に濃いめの新自由主義を混ぜたものを左派の新しい倫理として、提供しました。「いいちこにコーラを混ぜた粗悪品」と私のかつての労組の先輩は「第三の道」というものを批判し、現在も社会民主党に残留していますが社会民主党自身もそうした焼酎にドリンクを混ぜ、さらに野菜ジュースを混ぜている政策を提供しているので、本来なら焼酎もコーラもジュースもできれば原型に近い形で、多少の味付けを変えてしっかりと自信を持って提供するべきだと考えますが、難しいでしょうね。私はもっと素朴な味つけの方がかえってしっかりと美味しく楽しめると思いますが閑話休題です。

 

 元々現代貨幣理論の提唱者であるニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授はそもそも「失業者を出さない完全雇用社会」を誕生させるためにはどうした経済政策が必要なのか?と考えついた結果、それが現代貨幣理論になったというわけでそのイデオロギーは左派というより、純粋に経世済民という考えを突き詰めたらそうなったというものでした。元々ケルトン教授は1930年代のニューディール政策に少しの味つけをした経済政策を主張していました。ケルトン教授は今後、人類が持続できる方針は何かと考えたら環境政策に行きつき、その環境政策に雇用機会が生まれると人間は労働として環境を持続可能な社会を目指すようになる。当然それには、財政的な支援が必要な場合があり、国家として発行している通貨なら誰かに皺寄せがいかずに、環境も雇用も守られるという前提のもとに提唱しました。景気が悪化すれば、失業者増で政府支出が増える。景気が回復すれば政府支出は減少する。これが現代貨幣理論の要諦でした。(後略)

 

URL: https://note.com/laborkounion/n/n2614735022a3

 

 なるほど、それでMMTに緑の党系から賛同者が現れた。その一人が長谷川羽衣子であって、だから長谷川は緑の党から元号新選組に移ったってことか。

 グリーンニューディールといえば江東区の高野勇斗区議(立民)も比較的最近賛意を表明していたし、私も賛成する。それには積極的な財政支出が必要であるのも当然だ。しかし私は「減税真理教」は一切支持しない。

 ところで前記の引用文は下記のように書き出される。

 

 減税すれば逆に税収は増え、財政は均衡するというアメリカ大統領候補に後に大統領となるアメリカ共和党のジョージ・ブッシュ候補は「おまじないで奇跡を起こそうとしている」とこうした主張を批判しました。ブッシュ候補は元々経済政策というより軍事政策に一家言ある人で、当時の減税で税収を増やすという話は経済学者に多くの批判を浴びていたのを乗っかったという印象だったと言われました。

 

 これは1980年のアメリカ大統領選の共和党の予備選の話だ。つまり「減税すれば税収が増え、財政が均衡する」というのはいわゆる「レーガノミクス」であってMMTではないということだ。しかしケルトン教授がレーガンの軍事支出の代わりに環境関係の支出を考えたというのが発想の原点だったというのは、右派の思想を左派が借用したことが面白い。だから今度は(イギリスのトラスや今の日本の玉木分派のように)右派に借用されやすいのかもしれない。

 上記の点で、今年限りということで例外的に引用するが、ネトウヨの「まさ」の下記認識(コメント自体は未承認)は完全に間違っている。

 

 まさ (49.98.7.213)  
やっぱり私の書いたことはスルーしてるんですね。 でも、ありがとう。私みたいな者をね、なんというか批判であっても言及してくれてね。 でもさ、フランス云々はいいよ。カットで。 でもMMTに関しては、冗談抜きでトランプが勝った理由の大きな面なんですよ。 減税もすれば歳出も増やすという手法。 これ、すごく分かりやすいんです。 そこだけでも表示してくれないかなと。 それで、ああMMTってそういうことなにかと。 でもそれを持続できるのか?は別の話しになってくるんだというね。 大晦日だけど、今年ありがとうな。 ある意味、感謝してるんだ(^_^)
"ステファニー・ケルトン教授の提唱した初期のMMTでは「貨幣の信用を担保するためには課税を重視する」ことが一番重要だったが、いつのまにかリバタリアンが乗っ取って利用したのが現在" (by レバ子氏)

 

 リクエストに応えて表示してやったが、残念ながらその認識は間違いだ。民民が唱える「減税真理教」は、間違っていたことが既に歴史的に証明されている「レーガン経済学」の焼き直しに過ぎず、MMTではない。ただ民民の「積極財政」の看板にMMTっぽいイメージを与えているだけだ。以前このブログで紹介したkazukazu氏のXが指摘していた通り、民民の玉木分派は小泉・竹中の過激な新自由主義の再来ととらえなければならない。ただ、MMTが民民の玉木分派などの経済極右に利用されやすい弱点を持っているとはいえると思う。

 もっとも私もようやく長年とってきた「MMTには近寄らない」態度を改めざるを得ない事態に追い込まれた段階なので、いろいろと考えながら記事にしていくのは来年の課題になる。(日本版)MMTにせよ民民の玉木分派にせよ、どこから来てどこに行こうとしていることを見極めることが、2025年以降の日本を暴走させないためには欠かせないと思うからだ。

 今年はこのあと読書ブログを更新して、その記事の告知記事で締めることになる。告知記事には告知以上の文章は載せないと思うので、ここでご挨拶を。

 皆様、良いお年を。

*1:https://www.data-max.co.jp/article/32530

*2:同前。

*3:監訳者のコメントは2019年。