『MIND GAME』と『ベルヴィル・ランデブー』

・『MIND GAME』は昨年夏公開のアニメ。現在DVD版発売中、レンタル可能。
 『アリーテ姫』のSTUDIO4℃製作。
 私としては『アニマトリックス』『MEMORIES』より『アリーテ姫』でございます。

 『MIND GAME』公式サイト http://www.mindgame.jp/

  参考:ARTIFACT 人工事実 『MINDE GAME』http://artifact-jp.com/mt/archives/200408/mindgame.html

・原作はロビン西さん、'95年と10年前に書かれたマンガ。(ISBN:4870316226)
 現在新装版で復刊されたものが入手できます。
 ヒロインがワンレンぼでぃこんしゃすであったりして、時代を感じさせますことよ。


・昨年は士郎正宗『アップルシード』『インセンス』、大友克洋『スチームボーイ』
 そして『ハウルの動く城』と注目の大作劇場アニメがいくつも公開されましたが
 この『マインドゲーム』こそ最高のものでありました。
 アニメであることを存分に活かした映像表現。多様で自由で勢いある演出。

・アニメの大作というものはお金と時間をかけたもの、
 たくさん絵の枚数を使って、リアルな背景、動きのあるアクションなどの
 絵の表現に凝ったもののようです。
 劇場用だからこそできるのですが、それを上手く使いこなせているのか。

・例えばスタジオジブリの『猫の恩返し』。よくまとまった作品ですが
 他のジブリ作品に比べると主人公の顔が見えません。
 何のために何をしてどうなったのか。
 テーマやストーリーではなく
 「宮崎ヒロイン」と呼ばれるキャラクター存在感の表現こそが
  宮崎駿作品の持つ力と言えるでしょう。


・『マインドゲーム』はテーマに合った優れて創造性の高いデザインを持つ原作を
 写実的、リアルとは逆のキャラクターを自在に動かすことができる、という
 アニメションの快感で真直ぐに表現した作品。それを完遂した実力。
 まさに昨年最高の映像作品です。



・もう一本は『ベルヴィル・ランデブー』。
 '02年製作のフランス製アニメ。日本では現在劇場公開中。

 日本版公式サイト http://www.klockworx.com/belleville/
 アメリカ版公式サイト http://www.lestriplettesdebelleville.com/

 参考:唐沢俊一 裏モノ日記('04年8月10日)http://www.tobunken.com/olddiary/old2004_08.html

・なぜこのようなすばらしい作品が2年遅れでないと見られないのかと、
 光速のネット社会など嘘っぱちでありますことよ。


・この2作品、どちらもとても人を選ぶ尖った作品です。
 『マインドゲーム』は、いわゆる「サブカルチャー」と呼ばれる作品支持層、
 それに対して『べルヴィル』はアニメなどまず見ないであろうという
 まさに大人向けの作品。とってもフランスです。

・フランス映画といいますとヌーヴェル・ヴァーグであるとか
 『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』などのゴダール作品であるとか。同じか。
 もしくはハリウッドを通した印象だと恋愛映画ばかりであろうか、
 のような片寄った印象。
 近作では『アメリ』(ASIN:B000063UPL)が有名ですが
 これはむしろ『マインドゲーム』の演出に近いところで、
 同じジュネ監督でも『ベルヴィル』に近いのは
 『デリカテッセン』(ASIN:B00005R237)のほう。余計わかりにくい。

・フランスアニメというとあまり知らないのですが
 マンガ(フランスではバンド・デッシネ)ではメビウスなどが有名。
 マンガというよりあーと。美術作品というべきものです。
 (参考:メビウス・ラビリンス http://moebius.exblog.jp/)


・「ベルヴィル」も日本の映画(主にアメリカ製)、そして日本のアニメからすると
 相当に片寄っていて、特殊な設計。
 おばあさんが主人公であり、観客が容易に感情移入できません。
 ほとんど喋りません。
 代わりに聞こえるのは
 泣かせの効果音や爆笑する観客席のおばさん声ではなく
 音楽。歌。楽曲『ベルヴィル・ランデブー』。

・映像作品での演出において
 背景音、効果音の比重が高いことは、音を消せばすぐにわかります。
 同じ場面でも感動したくともできなくなります。
 では、感動させられているのか。製作者の狙い通りに。
 笑うところではユーモラスに明るい音。泣かせるところでは感動的に悲しい音。
 その通りで、それが演出というもの。
 観客をストーリーの展開通りに上手くコントロールするのが優れた演出です。

・歌詞を伴う楽曲は大きな力を持っています。例えフランス語で意味がわからなくとも。
 そこでは歌曲こそが演出の主体。作劇が逆に音楽への陶酔を促します。
 特徴はそこに明確にテーマが現れてしまうこと。
 逆にテーマに沿わない歌、例えばタイアップでとってつけた流行歌などが
 全体で表現している「伝えたいこと」を邪魔してしまうことも多いです。


・『ベルヴィル』は寡黙で饒舌な作品。
 情感あふれるセリフや雰囲気ある音楽で見せるのではなく
 強調されたフランスの夜やベルヴィルの街の俗悪さ、
 ツールの脱落選手をさらう理由の皮肉、
 ベルヴィルトリプレットの老醜、そういった汚さ、苦みを
 笑い飛ばすべきくだらない事実である、と観客に思わせるのではなく
 ありのままに提示する。
 必要なのは感動のエンディングではなく、終わらない歌である。



・どちらも見る人を選ぶ作品。面白いと思うひともいれば
 つまらないと思うひともいるでしょう。
 しかし、どちらもとても優れた作品です。
 是非機会があればご覧になってくださいませ。