有馬記念・海外遠征考

今年の暮れの香港GIでリバティアイランドが負けたところで、「今年の日本馬は海外GI勝利ゼロ」という残念なニュースが報道された。2018年以来6年ぶりだそうで、さらにその前は2010年まで遡るらしい。

JRA所属馬海外遠征の記録(2024年) 海外競馬発売 JRA

思い返せば昨年は、日本競馬が世界を制したと強く感じられた年だった。レーティング135で世界ランキング1位に輝いたイクイノックスだけでなく、世界最高賞金レースのサウジカップをパンサラッサが、ドバイワールドCをウシュバテソーロが優勝し、BCクラシックではデルマソトガケが2着。日本勢鬼門の凱旋門賞でさえ、日本ではG3勝ちとGI2着1回しかないスルーセブンシーズが4着に健闘していた。こうした華々しい活躍ぶりを見て、2024年は日本勢の更なる躍進を期待した人は多かったと思う。

しかし蓋を開けてみると、ダート路線こそフォーエバーヤングやウシュバテソーロが世界トップ級のレースで健闘したとはいえ、芝に関して言えば大きく期待外れ。海外に遠征した馬はというと、リバティアイランド、ドウデュース、スターズオンアース、ジャスティンパレス、プログノーシス、シンエンペラー、ローシャムパーク、タスティエーラ、ステレンボッシュ、ナミュール、ダノンベルーガ、ソウルラッシュといった、日本で最も層が厚いと思われる中距離からマイルのまさに現役最強集団。かつてないほど日本総出で世界各地へ繰り出して、ただの1頭も勝利を挙げることができなかったのだから、事態は結構深刻なのではなかろうか。

 

端的に言ってしまえば、「今の日本の芝には強い馬がいない」「海外のトップに比べて相対的にレベルが低い」ということなのだろう。海外のホースマンもきっとそう思っているであろうことは、今年の日本のGIに海外馬が多く遠征してきたことからもわかる。ジャパンCにゴリアットやオーギュストロダンといった近年では珍しいほどのビッグネームが名を連ねたほか、短距離路線のビクターザーウィナー、ロマンチックウォリアー、チャリン、そして阪神JFにまで海外2歳馬が参戦してくる事態になっていた。ジャパンCでゴリアットのオーナーが戦前言っていた挑発めいた言葉も、レースを盛り上げるためのパフォーマンスだけでなく、きっと本音なのだろう。ジャパンCに強い海外馬が来るというのは、レースの趣旨として嬉しい半面、日本競馬が舐められているという側面を思うと何とも複雑な気持ちになる。

 

イクイノックスが抜けた後の日本競馬のレベルの低さについては、昨年の有馬記念にも表れていた。その一か月前のジャパンCでは、イクイノックスから4馬身離れてリバティアイランド、さらにそこから1馬身遅れてスターズオンアース、ドウデュース、タイトルホルダー。つまり1着から5馬身離されていたこの3,4,5着馬が、続く有馬記念では1,2,3着を独占したのである。その頃は「ジャパンC組がレベルが高かった」「イクイノックスが化け物」で片づけていたけど、その後の日本馬の海外での低迷、そして今年の秋の天皇賞とジャパンCでもドウデュースの独り舞台のようなレースが続いたのを見ると、現在の日本馬の全体的なレベルの低さをはっきり思い知らされた気がしてならない。リバティアイランドは古馬になって期待したほどの成長が見られなかった。国内で走る限りはおそらくドウデュースだけが世界レベルの能力に達している。しかしそれ以外は、世界トップクラスとはハッキリ差があると思った方が良いのかもしれない。

 

世界との比較はあくまでトップレベルの一部の馬の話だし、相対的なものでもあるので、日本が弱くなったというよりは海外の超大物のレベルが上がったのかもしれない。しかし日本だけ見ても、この1,2年でディープインパクト産駒やキングカメハメハ産駒の数が急激に減り始めたわけで、トップ層のレベルの低下は全体の地盤沈下とも関係している可能性は十分考えられる。頼みの綱と思われたドゥラメンテも早逝したので、もう今年デビューの2歳がラストクロップ。ロードカナロアはアーモンドアイやパンサラッサのような大物も出すけど、産駒の獲得賞金順で3位はダノンスマッシュ、4位はサートゥルナーリア、5位はダイアトニックくらいまでレベルが下がってしまって、大物を継続的に出すまでには至っていない。エピファネイアも現役最強と言えたほどの大物はエフフォーリア一頭だけだし、今年のリーディングを独走するキズナ産駒も大物感には欠ける馬ばかり。もう一度キタサンブラックの一発に期待するしかないのだろうか。イクイノックス産駒がデビューすればまた変わるかもしれないけど、それまでは日本馬の低迷が続くのかもしれない。

今年のジャパンCでゴリアットやオーギュストロダンを返り討ちにしたことで、「やはり日本の芝でやる限りは日本馬が強い」との再認識が広がったと思う。来年あたりに適当な外国馬が参戦してきても、みんな見向きもしないだろう。もしかしたそこで格下と見られた海外馬にあっさりジャパンCを持っていかれてしまうんじゃないかな、という気がしている。

 

今年のジャパンCで7番人気と8番人気の低評価を覆して2着同着に入ったシンエンペラーとドゥレッツァは、夏や秋にそれぞれ海外遠征してアイリッシュチャンピオンS3着とインターナショナルS5着だった。この成績でも、もしかしたら今の日本の芝馬としては「よく健闘した」と評価しておくべきだったのかもしれない。少なくとも、強い馬たちと戦って揉まれた経験というのは、その後にとってプラスになるというのは想像に難くない。

そんなことを考えていくと、積極的に海外に遠征して好走を続けてきたシャフリヤールやプログノーシスについても、今年の有馬記念で決して評価を下げられない気がしてきた。シャフリヤールは現在netkeiba想定11番人気だけど、昨年の有馬記念も5着に検討していて、それも3着とは同タイムの接戦だった。今年は去年と全く同じレースに出走するローテーションを組んでいて、今年の方が明らかに成績が良い。一方で相手はタイトルホルダーが引退、スターズオンアースが不調となると、去年以上の着順があっても何も驚けない。

そして想定6番人気プログノーシス。こちらも川田将雅に振られてしまったけど、香港でロマンチックウォリアー相手に三度接戦を演じた実績は改めて評価されるべきかも。コックスプレートでも現地のヴァイシスティーナに8馬身差をつけて完敗したけど、従来のレコードを1.8秒も更新するくらいに相手が強すぎた。むしろ他の有力馬をよく押さえて2着を確保したことが大きな強みになるかもしれない。

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