有馬記念・ドウデュース考

もう今年も有馬記念ですね。こないだ有馬記念やった気もするんだけど。なんか2024年早くないですか。

有馬記念くらいはこちらもやる気を見せたいところだけど、どうせ枠順が出るまでは印の打ちようもないので、週中は予想というより、頭に浮かんだことをつらつらと書き殴ってみたい。最終的な予想の役に立つかはわからない。書かないことってすぐ忘れちゃうよね。書いても忘れるけど、少なくとも後から見返すことはできる。

 

今年の有馬記念は、勝っても負けてもドウデュースの引退レース。同期の最強馬イクイノックスの前では霞んでしまいがちだけど、この馬も国内で武豊が騎乗したときの成績は( 8 1 1 1 )で、唯一の着外は道悪の宝塚記念だけという素晴らしすぎる戦績。しかし思い返してみても、これまでの予想でこの馬を正しく評価できた試しがなかった。今までロクに印を打ったこともなくて、打った時に限って大敗する相性の悪さ。去年の有馬記念も、個人的には結構良い予想が出来ていたと思うんだけど、唯一ドウデュースの能力の高さを見誤っていた。今秋の天皇賞を勝った時も、あまりにも鮮やかな追い込み一気を見て「先行馬の出来が悪すぎた」「超スローの団子状態が逆にドウデュースに向いた」くらいに受け取っていたので、ジャパンCのひとまくりには心底驚いた。これほどまでに「レースを支配する力」を持っているとは思っていなかった。

 

いくら強い馬でも勝敗は展開に左右されてしまうので、「レースを支配する力」というのはGIを勝ち続けるために必要である。キタサンブラックやダイワスカーレットのように前で支配する馬もいれば、ゴールドシップのように後ろから支配する馬もいる。

こういうレースを支配するほどの強い馬がいるとき、馬券的にも逆らえなさそうだとなると、次に考えるのは「ヒモに何を連れてくるのか」ということである。ざっくり大別するなら、ヒモに先行馬を残すのか、それとも追い込み馬を連れてくるのか。この前か後ろか問題は、もちろん展開に依るところが大きいんだけど、レースを支配するほどの強い馬がいる場合は、どちらが起こりやすいのかをその支配する馬次第で判別できないだろうかと以前から考えていた。

そう思ったきっかけはスペシャルウィーク。ダービー馬として古馬でも王道を突き進んだ代表格だけど、GI4勝のうち実に3回が馬連万馬券の波乱になっている。スペシャルウィークは、サンデーサイレンス産駒の代表馬の一頭でありながら上がり33秒台を生涯一度も記録していないのが特徴で、この馬がGIを勝つときは厳しいペースになることが多かった。結果的に、ボールドエンペラーやステイゴールドのように、重賞では一歩足りない差し馬が2着に食い込んで穴を開けていた。今にして思えば単なる偶然かもしれないけど、レースを支配するほどの主役がいる場合には、その主役のキャラクターが結果に強く反映されるはずで、通常の展開予想よりよほどとっつきやすいのではなかろうか。

 

ヒモに追い込みを連れてくるタイプの代表格と言えば、ゴールドシップだろう。ワールドエース、ロードアクレイム、スカイディグニティ、オーシャンブルー、フェイムゲーム。ゴールドシップがマクって勝つレースでは先行馬は潰れ果てて、2着には決まって追い込み馬を連れてくる。オルフェーヴルも結果的に見ればこのタイプで、2,3着にはいつもウインバリアシオン、エイシンフラッシュ、ショウナンマイティら後方勢の名前が並んでいた。

一方で、同じ追い込み脚質でもヒモに先行馬を残すタイプもいる。ディープインパクトがその典型。2着が追い込みだったのは皐月賞のシックスセンスくらいで、それ以外のほとんどは逃げ・先行馬を残しつつ後方勢の中で自分一頭だけが悠々と差し切るレースが特長だった。アーモンドアイもそう。アーモンドアイが勝つレースでは、後ろから溜めて行く馬に2着の目はほぼなかった。

このあたりの違いは、馬というよりも、どこで仕掛けるかという騎手の性質・気質によるところが大きいのかなとこれまで思っていたんだけど、ドウデュースを見ているうちに、やはり馬の性質なのかなという気がしてきた。

 

ドウデュースもディープインパクト同様、「ヒモに先行馬を残す」タイプの追い込み馬である。去年の有馬記念では残り700からロングスパートを仕掛けて、4角を回る頃には2番手を追走していたスターズオンアースを交わし、そこから2頭の叩き合いに持ち込んで、逃げるタイトルホルダーを交わしてゴールした。今年の秋の天皇賞も、逃げるホウオウビスケッツと3番手を追走していたタスティエーラをただ一頭大外から追い込んで差し切り勝ち。そして前走ジャパンC。最後方から東京の3,4角をマクって一気に先頭に並びかけて、逃げるドゥレッツァとシンエンペラーとの叩き合いに持ち込み、先頭を譲らないままゴールした。これら3つのレースで毎回、勝負が終わった後で後方から突っ込んできたのがジャスティンパレスである。着差自体は僅かなので次こそはと思わせるんだけど、実際のところジャスティンパレスは勝ち負けには関与できず、同じような負けを何度も繰り返している。

ドウデュースは圧倒的な瞬発力で後続を置き去りにしてただ一頭だけ先頭に並びかける。そこからディープインパクトのように圧倒的に突き放すほど能力が抜けているわけではないんだけど、直線では先頭の馬との叩き合いに持ち込んで、相手の力を利用しながらさらに伸びる。後方の馬はなすすべがなく、むしろドウデュースのまくるペースに負けじと道中必要以上にペースアップしたせいか、最後は完全にバテてしまって先頭の馬との差がむしろ広がってしまうように見える。今年のジャパンCも、いくらスローで前有利だったとはいえ、逃げたシンエンペラーとドゥレッツァの上がり3ハロンの数字が後方で溜めたチェルヴィニア以上になるとは、誰も想像していなかったのではなかろうか。チェルヴィニアに騎乗したルメールは、「ドウデュースと同じ走りはできない」と白旗を上げた。それ以外の差し馬もまとめてガス欠にさせてしまうくらい、ドウデュースのマクる脚はずば抜けていた。後ろの馬は付いていけずに最後力尽きる。結果、ヒモには前の馬が残るのである。

これはゴールドシップとは対照的だ。ゴールドシップは早めに追い出すけれども絶対的なスピードが足りていないので先行馬にはなかなか追いつくことができず、それでも追い続けて、2段、3段とまくり続けることで先行馬を捕まえる。じりじりとペースアップしていくので、後続もみんな無理なくそれに付いてくる。そういうマクり方をした場合には、前の馬が先に潰れてしまって後方決着になるのだろう。

 

ディープインパクトも一度仕掛けたらマクる脚はずば抜けて速かった。その結果追い込み馬がヒモに来ることはほとんどなかった。オルフェーヴルは、普段はヒモは追い込みを連れてくることが多かったけど、マクる脚が印象深いのは2着に負けたジャパンCである。このレースは今年のドウデュースのジャパンCと非常によく似ていて、大外を一瞬で一気にマクった馬と前で足を溜めた先行馬との追い比べになって、後続は何もできずに突き放されたままで終わっている。

ついでに、3角、4角をマクる脚が非常に速いことで思い出すのは、先行馬だけどマツリダゴッホ。中山( 8 1 1 3 )、札幌( 2 1 0 3 )、それ以外は( 0 0 0 8 )という極端な成績を残したこの馬の正体は、狭いコーナーを高速で回りながらトップスピードで直線を迎えることができる、究極のコーナー巧者でもあった。マツリダゴッホがロングスパートで勝ったレースの多くでも、後ろの馬は何もできず、2着にはマツリダゴッホより前にいた馬が残っている。

 

さて今年の有馬記念。逃げ馬候補だったホウオウビスケッツとメイショウタバルがまさかの除外で、スロー必至のメンバー構成。枠順について「全然どこでもいい」とさらりと言ってのけた武豊のやることは決まっている。今回も同じ作戦で来て、同じようにレースを支配しようとするだろう。

そうすると、ドウデュースと一緒に後ろから上がっていく馬はやはり狙いにくい。前目に付けて、ドウデュースの急襲を待って、そこから追い比べができる馬がいないかをまず探すところからだろうか。

 

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