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超低賃金労働の果てに警官に射殺された中国人労働者 「現代の奴隷制」外国人実習制度がレイシズムへ連鎖 ――ジャーナリスト安田浩一氏が見た日本社会の根底に潜む闇 2015.4.21

記事公開日:2015.5.20取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・花山)

特集 秘密保護法

※5月20日テキストを追加しました!

 「ある縫製工場では、来日1年目の外国人実習生は時給200円。2年目に50円昇給。3年目にようやく時給300円。経営者は実習生を『うちの子』と呼びながら、過酷な労働を強いる。私は、これがレイシズムや人種差別、排外主義に結びつくと考えている」──。

 秘密保護法違憲訴訟東京原告団講演会が2015年4月21日、東京都千代田区の岩波セミナールームにて開催され、ジャーナリストの安田浩一氏が「外国人労働者問題と秘密保護法」と題して講演を行った。

 安田氏は、外国人実習生を労働者とみなさず奴隷扱いする社会が、レイシズムや人種差別を生むと指摘し、「人を人として見なくなる。それが、外国人実習制度だと私は思っている」と述べて、オーバーステイのためパスポートを提示しなかった中国人実習生が、警察官に射殺された事件に言及した。

 「時給400円で3年間働き、いよいよ明日、中国に帰るという日、経営者から預金通帳を渡されて、想像よりも低い金額に彼は愕然とする。日本で3年も働けば、中国で立派な家を建てられると思っていたのだ。彼は思い悩んで逃げた」

 その後、この中国人実習生は職を転々としながら、栃木県の小さな町で警察官に職務質問され、逃げ込んだ民家の庭で撃たれて死亡してしまう。安田氏は、「彼は怖かったんだと思う。警察官のほうも怖かったのだろう」と語り、背景に、外国人実習制度の弊害や外国人労働者に対する偏見があることを示唆した。

 また、秘密保護法について、「外国人を管理、監督、抑圧してきた日本社会の中で生まれた秘密保護法は、国家主義という基本思想の中で、外国人だけでなく、日本社会をも押さえつけようとしている」と述べ、政府が秘密を保持しようとする時、その陰には必ず戦争を起こそうとする企みがある、と主張した。

 「これは日本だけでなく、あらゆる国で同じだ。秘密保護法に反対することは、そうした一方的な国家主義、さまざまな差別と分断に反対するだけでなく、戦争への企みを打ち砕くことにつながる」

記事目次

■ハイライト

「国際協力、国際友好」の美名のもと、外国人労働者が酷使される

 安田氏が、差別や排外主義の問題に取り組み始めたのは、外国人労働者の問題がきっかけだという。

 「特に注目していたのは、技能実習生の問題。日本には労働ビザはなく、就労可能な滞在資格が存在するだけ。生産現場で外国人の労働を許可する、という法律はない。しかし現実に、工場や農村で働いている外国人がいる」

 彼らは一部の専門職、あるいは就労を伴った滞在資格を得た人で、もっとも数が多いのは技能実習生、そして日系南米人だという。「日本の生産現場で主力をなしている外国人労働者は、この技能実習生と日系南米人だと思ってほぼ間違いない」と安田氏は言う。

 日本の公式統計では外国人労働者数は約70万人だが、不法滞在や超過滞在の人も万単位で働いている可能性があり、安田氏は、「正確な実数はわからない。実際には100万人近いのではないか」とした。

 外国人の技能実習生制度は、1990年代から始まったとされる。しかし、実質的には1960年代に、純粋な技術研修としてスタートしている。外国人が日本の工場で技術を学び、国に帰って指導にあたる。留学の一形態であったそれが、1970年代後半から安価な労働力へと変わっていく。

 「一部の大企業は『研修』と称して実習生に下働きをさせ、労働力として重宝するようになる。事実上の労働者でありながら、彼らは労働者として認められない。日本からの技術移転、国際協力など、さまざまな建前が踊る中で、このような『研修』が制度化されていった」

 そして現在では、20万人近い技能実習生が日本で働いており、職場として一番多いのは農業、漁業の第一次産業だという。安田氏は、「日本の地場産業、伝統産業と言われているものが、実際は外国人実習生によって支えられている」と話した。

外国人労働者への低賃金労働の強制が、レイシズムへと連鎖

 「1990年代から、時給300円台で働く外国人労働者は存在した」と安田氏は言い、休みがなく長時間労働で、まるで奴隷労働のような雇用実態を、次のように語っていった。

 「岐阜県の縫製会社で働く彼女たちは、給与明細を見せてくれた。日本に来て1年目は時給200円。2年目に50円昇給する。3年目にようやく時給300円。目を疑った。こんなことがあっていいのかと。労働時間は朝8時から夜8時が定時、夜10時まで残業。仕事はそれで終わらず、夜10時から12時はボタン1個つけたら1円50銭の歩合制になる。そういう労働を強いられていた。休みは月に1回くらい。あまりにもひどい」

 その縫製会社の社長に取材した安田氏が、「こんな劣悪な労働条件は聞いたことない。労働法違反ではないか」と尋ねると、社長は、「外人に、日本人と同じ給料を払わなければいけないのか」と答えたという。

 日本で働いているのだから、日本の法律はすべての人に適用される。たとえ、オーバーステイでも不法滞在でも、労働の対価はきちんと支払わなければならない、と安田氏は語る。

 「日本の労働法は優れていて、そういう所はしっかりしている。しかし、経営者側は、外国人に対しては劣悪な労働をさせていいと思っている」

 安田氏によると、こうした社長たちは、外国人労働者のことを「うちの子」と表現するという。

 「中小零細企業で働く者は家族同然、外国から来て不自由な中で一生懸命頑張っているから『うちの子』だ、と説明する。しかし、自分の子にそんな厳しい労働を課すだろうか。時給200円で働かせるのか。『うちの子』と言いながら、外国人実習生に過酷な労働を強いて何とも思わない。私は、このことがレイシズムや人種差別、排外主義に結びつくと考えている」

 社長一人ひとりはいい人だが、制度によって、自分たちの概念や環境も含めて全部おかしくなっていく、と指摘した安田氏は、「人を人として見なくなる。それが、外国人実習制度だと思っている」と語気を強めた。

警官による中国人実習生射殺事件──時給400円で3年働いた果てに

 続いて安田氏は、ある実習生の衝撃的な事件を紹介した。

 「2006年、愛知県の建設会社から1人の中国人実習生が逃亡した。時給400円で3年間働いて、いよいよ明日、中国に帰るという日、経営者から預金通帳を渡されて彼は愕然とする。想像していたよりも金額が低い。

 国には奥さんと2人の子ども、自分の母親が小さな家に住んでいる。彼は、日本で3年も働けば、立派な家を建てるだけのお金を持ち帰れると思っていた。お金を貯めるまでは帰れない。その建設会社にいることもできない。彼は思い悩んで逃げた」

(…会員ページにつづく)

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