先日、朝日新聞に、裁判員裁判による死刑量刑を控訴審が破棄したケースが2件、最高裁で確定したことを受けて大きい記事が掲載された。
http://digital.asahi.com/articles/ASH245Q6MH24UTIL03X.html
これをめぐって、アンチ裁判員派による裁判員裁判廃止論を含めて大変多くの言説がネット上を飛び交っている。
しかし、専門家を含めて、裁判員裁判と職業裁判官のそれぞれの死刑量刑に対する事実認識や、手続上の差異について、十分な共有知識、データを踏まえた意見が交わされていないように思われたので、ここに簡単にデータを挙げ、以後の議論の基礎にしておきたい。
まず、日本の法律には死刑を刑罰に定める規定が10以上もあるけれども、実際に死刑が裁判で求刑されるかどうかは、法律の定めではなく、あくまで検察官が裁判手続の終わりに求刑に対する「意見」として死刑を求めた場合だけ、死刑判決が選ばれる。 検察官が死刑を求めていないのに死刑判決をすることは禁じられていないが、現実にはそういうケースはない。
だが、日本の公式統計には死刑求刑に対する死刑判決の数が抽出できないので、ここでは民間で集められているデータを用いることにした。
出典は以下。
http://www.geocities.jp/masakari5910/satsujinjiken_shikei02.html#01
ここに検察官が死刑を求刑したケースの一覧がある。
2006年から2014年までに死刑求刑された事件は102件あるが、その内、無罪判決が5件ある。
そうすると97件の量刑手続で死刑か、それ以下(無期懲役)かを裁判体が選択したことになる。
これを裁判員裁判と非裁判員(職業裁判官)裁判で分けてみると、次のようになる。
職業裁判官裁判 求刑数 69件 死刑39件
言渡し率 56.5%
裁判員裁判 求刑数 28件 死刑22件
言渡し率 78.7%
このように、裁判員裁判の場合、死刑が20ポイントも出易い、というのが統計的に確認できる。
だからと言って、裁判員(市民)が死刑を好んでいるとか、厳罰志向だ、と短絡的に言えるかどうかは別である。 この問題に対する解を得るには以下のような検討が必要だ。
第1
裁判員裁判の方が、裁判官裁判よりも、死刑判決が出易い手続となっていないか?
・・・この仮説を「手続原因論」と呼んでおこう。
第2
検察官は裁判員裁判では相当に重いケースだけに絞って、死刑を求刑しているのではないか?
・・・この仮説を「選別原因論」と呼んでおこう。
第3
そもそも起訴されている殺人事件の性質が異なって来ていて、たまたま、裁判員裁判が始まってから残虐なケースが多くを占めるようになってきたから、死刑が増えただけではないか?
・・・この仮説を「残虐性原因論」と呼んでおこう。
他に原因論が考えられるかもしれないが、とりあえずはこれだけは検討しておく必要があると思う。
これからしばらく、このブログで以上の仮説について検討を加えて、裁判員裁判と死刑量刑の関係を検討していきたい。