今年は戦後80年でもあるが、この毎日新聞の記事には唖然とした。
筆者は毎日新聞の栗原俊雄記者。「為政者の嘘を暴けなかった」などと、まるで新聞が被害者のような書きぶりだが、東京日日新聞(毎日新聞の前身)は加藤高明が社長をつとめた御用新聞として主戦派の論陣を張り、1940年に日独伊三国同盟を推進した急先鋒である。
当時ドイツ軍はヨーロッパで快進撃を続け、北欧やフランスを占領して、イギリスの陥落は時間の問題だと思われていた。松岡洋右外相は三国同盟の締結に奔走し、東京日日新聞ロンドン特派員は「バスに乗り遅れるな」と書いて三国同盟をあおった。これが流行語になり、三国同盟が結ばれたときの新聞は、祝賀一色だった。
アジアのイギリス植民地を獲得するために、日本軍は早く東南アジアを占領すべきだという火事場泥棒的な南進論が強まった。対英戦争は必然的に対米戦争になるので海軍首脳は慎重だったが、松岡は「対米戦争も短期決戦で勝てる」という強硬方針を打ち出した。
日独伊がソ連と連携し、イギリスが降伏すれば、アメリカは中立を守るとみていたのだ。そのためヒトラーと会談して、日独伊ソ四国同盟の締結を提案したが、そのとき実はヒトラーは対ソ戦を準備していた。
このように資源は東南アジアで「現地調達」すれば何とかなると軍は考えたが、ルーズベルト米大統領は予想外に強硬な方針でのぞみ、石油の禁輸に踏み切った。日本軍の使う石油の8割を占めるアメリカからの輸入がなくなったら戦争に勝てないことは図上演習でもわかったが、軍の作戦には反映されなかった。
松岡は対ソ戦を主張し、南方で米軍と衝突することは想定していなかった。日本がヒトラーと共同でソ連を挟撃すればアジアの盟主になり、世界を大東亜圏、米州圏、欧州圏、ソ連圏に四分割する構想をもっていた。ここでは資源はドイツの征服した欧州圏とソ連圏から無尽蔵に供給されるので、補給の制約があるとは思っていなかった。
いま思えば誇大妄想だが、政府の第7次エネルギー基本計画は、松岡の世界分割計画と似ている。「カーボンニュートラル」には莫大なコストがかかるが、その資源をどうやって調達するのかは考えていない。それどころか化石燃料の供給を削減するので、資源制約が深刻化することは避けられない。
そして今回の脱炭素化の主役もドイツである。石炭火力を減らす一方で原発をゼロにし、天然ガスのパイプラインがウクライナ戦争で遮断されて経済は壊滅した。それでもベルリンが焼け跡になるまで、ドイツ人は無謀な戦争をやめなかった。今度もその後を追うのだろうか。
なぜ、新聞は戦争を止められなかったのか? 課せられた二つの使命https://t.co/kBZy9KSAYd
— 毎日新聞 (@mainichi) January 4, 2025
今年は「戦後80年」。新しい戦争が起きない限り、戦後は続く。「戦後」を永遠にするために、取材と発信を続けたい--。
筆者は毎日新聞の栗原俊雄記者。「為政者の嘘を暴けなかった」などと、まるで新聞が被害者のような書きぶりだが、東京日日新聞(毎日新聞の前身)は加藤高明が社長をつとめた御用新聞として主戦派の論陣を張り、1940年に日独伊三国同盟を推進した急先鋒である。
当時ドイツ軍はヨーロッパで快進撃を続け、北欧やフランスを占領して、イギリスの陥落は時間の問題だと思われていた。松岡洋右外相は三国同盟の締結に奔走し、東京日日新聞ロンドン特派員は「バスに乗り遅れるな」と書いて三国同盟をあおった。これが流行語になり、三国同盟が結ばれたときの新聞は、祝賀一色だった。
全体主義のバスに乗った新聞
毎日新聞のあおった「バス」とは、ドイツがヨーロッパを征服して民主主義の時代は終わり、全体主義の時代が来るという時代の流れだった。その「空気」は陸海軍の現場にも共有され、政府や軍の首脳もそれに屈服した。アジアのイギリス植民地を獲得するために、日本軍は早く東南アジアを占領すべきだという火事場泥棒的な南進論が強まった。対英戦争は必然的に対米戦争になるので海軍首脳は慎重だったが、松岡は「対米戦争も短期決戦で勝てる」という強硬方針を打ち出した。
日独伊がソ連と連携し、イギリスが降伏すれば、アメリカは中立を守るとみていたのだ。そのためヒトラーと会談して、日独伊ソ四国同盟の締結を提案したが、そのとき実はヒトラーは対ソ戦を準備していた。
資源制約を軽視した短期決戦論
松岡の短期決戦論には、致命的な見落としがあった。それは資源である。当時の陸海軍の戦略は日米戦争のような大規模な総力戦を想定していなかったので、補給の計画がほとんどなかった。南部仏印に進駐したのも石油などの資源を調達するためだったが、宗主国のフランスはドイツに占領されていたので、まったく抵抗なしに進駐できた。このように資源は東南アジアで「現地調達」すれば何とかなると軍は考えたが、ルーズベルト米大統領は予想外に強硬な方針でのぞみ、石油の禁輸に踏み切った。日本軍の使う石油の8割を占めるアメリカからの輸入がなくなったら戦争に勝てないことは図上演習でもわかったが、軍の作戦には反映されなかった。
松岡は対ソ戦を主張し、南方で米軍と衝突することは想定していなかった。日本がヒトラーと共同でソ連を挟撃すればアジアの盟主になり、世界を大東亜圏、米州圏、欧州圏、ソ連圏に四分割する構想をもっていた。ここでは資源はドイツの征服した欧州圏とソ連圏から無尽蔵に供給されるので、補給の制約があるとは思っていなかった。
いま思えば誇大妄想だが、政府の第7次エネルギー基本計画は、松岡の世界分割計画と似ている。「カーボンニュートラル」には莫大なコストがかかるが、その資源をどうやって調達するのかは考えていない。それどころか化石燃料の供給を削減するので、資源制約が深刻化することは避けられない。
そして今回の脱炭素化の主役もドイツである。石炭火力を減らす一方で原発をゼロにし、天然ガスのパイプラインがウクライナ戦争で遮断されて経済は壊滅した。それでもベルリンが焼け跡になるまで、ドイツ人は無謀な戦争をやめなかった。今度もその後を追うのだろうか。