アゴラ読書塾「平和の遺伝子」1月10日スタート

平和の遺伝子:日本を衰退させる「空気」の正体
日本経済が「失われた30年」などといわれているうちに、もう失われる前の日本を知っている人も少なくなってきました。後になってバブルと呼ばれた時代は意外に短く、私が東京の地価上昇の番組を初めてつくったのは1985年、不良債権の番組をつくったのは1992年でした。

いま冷静に考えれば、あの7年は日本の歴史上の例外で、高度成長が終わって成熟期に入る過渡期でした。しかし政治も経済も高度成長期から変わらず、田中角栄の始めたバラマキ福祉が現役世代の負担となり、いまだに「所得倍増」などという60年前のスローガンを持ち出す政治家もいます。それは日本がどこで間違えたかを自覚していないからでしょう。

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仏教の「空」の思想は大規模言語モデルである

入門 哲学としての仏教 (講談社現代新書 1988)
ほとんどの人にとって仏典は、葬式のとき読み上げる意味不明の漢文にすぎないが、その内容は合理主義である。少なくとも天上の神が地上の女と交わって子を産むといった荒唐無稽な話を信じる必要はない。本書はそれをあえて西洋哲学で解釈するもので、たぶん厳密には正しくないだろうが、現代人にはわかりやすい。

仏教はもともとバラモン教(ヴェーダ)から生まれた分派だが、その基本思想は「空」の哲学である。これはそれほど神秘的な思想ではなく、バラモン教の正統派が神(基体)を世界の本質と考える実在論であるのに対して、仏教は唯名論である。

仏教はスコラ神学のように超越的な神に対して現象があるとは考えず、世界には基体がなく現象(空)だけが存在すると考える。ソシュール的にいうと、シニフィアン(記号)だけがあってシニフィエ(意味)のない世界である。

このようなニヒリズムを論理的に突き詰めたのが中観派である。彼らは言葉の意味は他の言葉で定義されるトートロジーであり、その基体となる意味は存在しないと論じた。これは言語をその相互関係だけで考えるウィトゲンシュタインの言語ゲーム理論と同じ発想である。

これは最近の人工知能の大規模言語モデル(LLM)に似ている。LLMでは単語の意味を考えないで、その次に出てくる単語を確率論的に予測し、日常言語に近い文字列をつくる。それによって人工知能の難問だった記号接地問題を回避し、言語ゲームを解くのだ。

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池田信夫『平和の遺伝子』12月21日発売

私の新著『平和の遺伝子:日本を衰退させる「空気」の正体』が、12月21日に白水社から発売される(予約受付中)。まえがきを紹介しておく。

平和の遺伝子:日本を衰退させる「空気」の正体
1989年の大納会で日経平均株価が3万8915円をつけたとき、それが最高値になると思った人はほとんどいなかった。世界史上空前の高度成長を遂げ、自動車やテレビや半導体で世界を圧倒した日本の株価は、永遠に上昇するかのように思われた。唯一の心配は、その成功によってアメリカから攻撃されることだった。
 
それから35年たち、日経平均はようやくその高値を抜いたが、ニューヨーク・ダウ平均株価は同じ期間に17倍になった。私は人生の半分をバブル前、半分をバブル後に過ごしたことになるが、かつてあれほど成功した日本が、その後「失われた10年」といわれ、それが「失われた20年」になり、最近は「衰退途上国」といわれるようになったのはなぜか、いまだによくわからない。続きを読む

西浦博氏の「クーデター」と国家の不在

韓国の戒厳令未遂事件の関連で、コロナ騒動のとき西浦博氏の「クーデター」が話題になっている。彼の「何もしなかったら42万人死ぬ」というシミュレーションは、緊急事態宣言という有害無益な「戒厳令」をもたらした。


2020年4月15日の記者会見(NHKより)

西浦氏のモデルは単純だった。武漢とドイツで一時的に計測された基本再生産数Ro=2.5という仮定が世界中で一定だと想定し、世界中で新型コロナに免疫をもつ人がゼロだとするとどうなるか、という思考実験だった。その元になるデータのフィッティングもしていない。

これはイギリスのファーガソンらのモデルの数値を置き換えただけだった。このモデルではRo=2.4と仮定し、8月までにイギリスでは51万人、アメリカでは220万人が死亡すると予測した。

ファーガソンの予測

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『共同幻想論』の幻想

改訂新版 共同幻想論 (角川ソフィア文庫)
戦後最大の思想家というと、団塊の世代には吉本隆明をあげる人も多いが、彼は戦後最悪の思想家に近い。60年安保のころから暴力革命を煽動したが、70年安保のときはブント叛旗派というマイナーな党派の指導者で影響力はなかった。今や「吉本ばななの父」といったほうが通りがよいだろう。

吉本は詩人であり、語学ができないので哲学を系統的に学んだわけではないが、文章は詩的で洗練されている。意味のわからない表現も多いが、それが魅力になっている。なんとなく気分で書き、本人もわかっていないことをレトリックで飾っているだけだ。詩の意味が全部わかる必要はない。

ミシェル・フーコーは「フランスで偉大な思想家と思われるためには10%ぐらい意味不明の表現がないといけない」と言ったそうだが、吉本の文章もそんな感じである。安原顕がフーコーとの往復書簡を企画したら、吉本の手紙を読んだフーコーから「何をいっているのかわからない。吉本はヘーゲルをちゃんと読んだのか」と返事がきたらしい。

本書もマルクスの経済決定論を否定する独創的な国家論として評価されたが、国家が「共同幻想」だというのは、マルクスが『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』で論じたテーマである。ところがいくら読んでもナポレオン3世は出てこない。なんと吉本は『ブリュメール』を読んでいなかったのだ。

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生態史観と唯物史観

生態史観と唯物史観 (講談社学術文庫 977)
戦後の日本で歴史に残る思想家といえば、廣松渉と丸山眞男と梅棹忠夫ぐらいだろう。ただ梅棹の「文明の生態史観序説」は世界の歴史を数十ページで総括する荒っぽいもので、彼もこの発想をその後ほとんど発展させなかったので、スケッチに終わってしまった。

主流の歴史学ではマルクス主義的な唯物史観が支配的だったので、それとあまりにもかけ離れた梅棹の発想は、ほとんど相手にされなかった。唯物史観の側からの批判として、梅棹が「いたく心をうたれた」と書いているのが本書である。

廣松は東アジアの歴史に関する文献を渉猟し、生態史観を世界の「複線的な歴史」を理解する新しい枠組として唯物史観を補完するものと位置づけ、マルクスの「アジア的生産様式」の問題との関係で検討している。
 
これはマルクスが『経済学批判』序説の有名な発展段階の記述の中で「経済的社会構成が進歩してゆく段階として、アジア的、古代的、封建的、および近代ブルジョア的生活様式をあげることができる」と書いている中の「アジア的」というのが古代に先行するのか、それとも別の社会のことなのかという問題である。
 
この論争の中で有名になったのが、ウィットフォーゲルの水利社会の概念で、これが梅棹理論に近いというのが廣松の見立てである。ここではユーラシア大陸が水利社会と非水利社会にわけられ、乾燥地帯で大規模な灌漑設備の必要な前者では水資源を管理するために専制国家ができ、その必要がない湿潤地帯では地域の自律的な発展が可能だった。
 
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「日本の哲学」を求めて挫折した京都学派

京都学派 (講談社現代新書)
夫婦別姓や男系天皇をめぐるくだらない論争をみていると、日本の保守派にはそれぐらいしかアイデンティティのよりどころがなくなったのだと思う。日本の伝統とは何かという論争は明治以来ずっと続いてきたが、ここまで劣化したのは感慨深い。

この問題を初めて本格的に論じたのが京都学派だった。明治以降、仏教や儒教は捨てられ、難解な近代哲学が輸入されたが、ほとんどの日本人は理解できなかった。そんな中で西田幾多郎や田辺元は「日本の哲学」を構想し、京大四天王と呼ばれた西谷啓治、高坂正顕、高山岩男、鈴木成高などは論壇の主役となった。

彼らの研究テーマは当時の最新ファッションだったフッサールやハイデガーで、その研究としてはレベルが高かったが、解釈学を超えるものではなかった。そこで京都学派は西洋近代を超えるオリジナルな哲学を構想したが、その概念装置としたのが仏教の「空」の思想だった。

ところが京都学派は戦時中、『近代の超克』『世界史的立場と日本』などの時局迎合的な本を出し、戦後は公職追放された。このように近代を批判する思想が全体主義に合流してしまう点も、ハイデガーと似ている。それはなぜだろうか。

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自民党だけがなぜ選択的夫婦別姓に反対するのか

立民党が法務委員長を取ったことで、国会に夫婦別姓の選択を認める民法改正案が提出されることが確実になった。自民党以外は(公明党も含めて)全党派が賛成しており、自民党も党議拘束はかけないと思われるので成立は確実だ。


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大乗仏教は東洋と西洋を超える「惑星的思考」か

身体化された心―仏教思想からのエナクティブ・アプローチ
大乗仏教は近代の西洋哲学に似ているが、その類似点を拾い出しても意味はない。大事な問題は、大乗仏教が西洋哲学の問題を解決したのかということだ。フランシスコ・ヴァレラはそう考えた。

彼はニューロサイエンスの先駆者だが、彼のオートポイエーシス(自己組織化)理論は、神経細胞の認識が外界からの刺激と1対1に対応していないことを見出した。たとえば次の図形は、ある被験者には若い女性に見え、別の人には老婆に見える。どっちに見えるかは、図形からは導けない。

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このような実験を重ねた結果、ヴァレラがたどりついたのは認識論的ニヒリズムだった。人間の認識は身体と環境の社会的な相互作用で自己組織化されるのであり、主観とは独立の実在も、対象から独立の自我も存在しない。彼はこのような思想を大乗仏教の「空」の哲学に見出す。

その先駆として本書があげるのは、西谷啓治である。彼はハイデガーに学び、その影響を受けてニヒリズムを生涯のテーマとしたが、日本に帰国してからは大乗仏教を研究した。そこにはニーチェで行き詰まった西洋哲学を乗り超え、ハイデガーが追求した東洋と西洋の違いを超える「惑星的思考」があるという。

続きは12月2日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)

資本主義を生んだのは海賊のエートスだった

海賊の世界史 - 古代ギリシアから大航海時代、現代ソマリアまで (中公新書 2442)
世界史上の大きな謎は、ヨーロッパの西端の小さな島国だったイギリスが、世界最大の帝国を築いたのはなぜかということだ。その一つの答は、彼らの先祖がバイキングだったことにある。

農民は一生、生まれた土地にしばられるが、海賊は遊牧民と同じように移動しながら獲物をさがす。それは現代では犯罪だが、歴史上の大部分ではそうではなかった。今でもイギリスや北欧には、海賊の伝統が生きている。

大航海時代に多くの国が遠洋航海で貿易をしたのに対して、後発の小国だったイギリスは海賊を国家が雇った。海賊フランシス・ドレークはエリザベス1世にその強盗の腕を見込まれて、王室海軍の副司令官になった。

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フランシス・ドレーク

彼らのねらいは新大陸やアジアから財宝を積んで帰ってくる商船だが、イギリスの海賊はスペインの無敵艦隊にはかなわないので、船に火を放って相手の艦隊に突っ込ませる「火船攻撃」で無敵艦隊を全滅させ、大西洋の制海権を握った。海賊は正式のイギリス艦隊に格上げされ、ドレークは爵位を与えられた。

彼らは新大陸で奴隷を使ってタバコや麻薬などのプランテーションをおこない、それをヨーロッパに売った利益で奴隷を買う「三角貿易」で巨額の利益を上げた。これが資本主義の始まりである。資本主義を生んだのはプロテスタンティズムではなく、世界を移動しながら獲物を奪う海賊のエートスだったのだ。

続きは12月2日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)


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