その原理は、次の動画も説明するように次の単語を予測するという単純作業をくり返しているだけだ。なぜそれによってこれほど人間に似た言語処理ができるのだろうか?
Transformerは「次の単語を予測する」という単純な学習原理を持ちながらも、高度な言語理解を実現できる。その理由は、スケールの効果、自己回帰的学習、アテンション機構の強力さにある。以下に、それぞれの要因を詳しく解説する。
1. スケールの効果
- Transformerは、大量のデータと計算リソースを用いることで、膨大な知識を統計的に学習できる。GPT-3は1750億のパラメータをもつ。
- 事前学習(pre-training)では、何十億もの単語から膨大なパターンを学習し、それをファインチューニングによって特定のタスクに適用する。
- パラメータ数が増えることで、単純な「次の単語の予測」タスクが高度な概念理解に発展する。
- スケールが質を生む:近年の研究(Scaling Laws)によれば、モデルサイズ・データ量・計算量を増やすと、モデルの性能が予想以上に向上することが分かっている。つまり、単純なタスク」でも十分なデータと計算力があれば、複雑な推論が可能になる。
2. 自己回帰学習
- Transformerは、自己回帰モデル(Autoregressive Model)として機能し、過去のトークンをもとに次の単語を予測する。
- 一見すると「単語の予測」に過ぎないが、次の単語を決定するためには、文脈全体の理解が必要になる。
- その結果、意味の一貫性や長期的な文脈の保持が可能になる。
- 「局所的なルール」から「全体的な意味」へ:単語の予測は、単純な確率モデルではなく、「前後関係」や「文脈依存性」を強く持つ。これにより、Transformerは長い文章の意味を保持しながら、適切な次の単語を生成できる。
3. アテンション機構
Transformerの最大の特徴は、自己注意機構(Self-Attention)を用いる点にある。この仕組みがあることで、従来のRNNやLSTMでは難しかった以下の点が解決された。- 長距離依存関係の学習: RNNやLSTMは、情報を逐次処理するため、遠くの単語との関係を保持しにくい(勾配消失問題)。
- すべての単語を並列処理し、重要な単語間の関連性を動的に学習する。例えば、「犬が走る。彼は速い。」という文章では、「彼」が「犬」を指すことをアテンションが正しく認識する。
- 並列処理による効率化:RNNは前の単語を計算してから次に進むため、並列処理ができなかった。Transformerは全ての単語を一度に処理できるため、学習速度が飛躍的に向上する。
- 「単語の並び」ではなく「単語の関係」を学習する:単なる「次の単語の予測」ではなく、「文脈における単語間の関係性」を重視することで、高度な推論が可能になっている。