内閣官房の低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループの報告書がまとめられた。これは日弁連が「異端審問」で封殺しようとしたものだが、結果的には避難指示の基準となっている年間20mSvを追認するものとなった。これは今後の原発事故対策に重要な意味をもつので、少し解説しておこう(テクニカルな話なので、興味のない人は無視してください)。
WGの結論は次の通りである:
2のLNT仮説については、報告書も「これは、科学的に証明された真実として受け入れられているのではなく、科学的な不確かさを補う観点から、公衆衛生上の安全サイドに立った判断として採用されている」と注意をうながしている。100mSv以下のリスクは疫学的に検出できないのだから、それが「科学的に証明された真実」であるかどうかは今後ともわからないだろう。
しかし行政としては「証明できないものは存在しない」という立場をとることはできないので、避難指示の参考レベルとして20mSvという(これ自体は科学的根拠のない)数字を決めている。この線量基準は「法律で決まっている」ものではなく、行政が避難指示を行なう場合の目安に過ぎない。この点についても、報告書は説明している:
なおこの報告書には、海外の専門家からのコメントも寄せられている。その中で、チェルノブイリ事故について25年にわたって追跡調査を行なってきたサンクトペテルブルグ放射線衛生研究所のミハイル・バロノフ教授は、次のように指摘している:
この報告書を批判するのは結構だが、「原子力村の御用学者の話は信用できない」などという陰謀論ではなく、科学的事実によって反論してほしい。こうした科学的データについては、1月2日にスタートするGEPRで紹介する予定である。
- 国際的な合意に基づく科学的知見によれば、放射線による発がんリスクの増加は、100ミリシーベルト以下の低線量被ばくでは、他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さく、放射線による発がんのリスクの明らかな増加を証明することは難しい。
- 放射線防護の観点からは、100ミリシーベルト以下の低線量被ばくであっても、被ばく線量に対して直線的にリスクが増加するという安全サイドに立った考え方に基づき、被ばくによるリスクを低減するための措置を採用するべきである。
- 現在の避難指示の基準である年間20ミリシーベルトの被ばくによる健康リスクは、他の発がん要因によるリスクと比べても十分に低い水準である。
2のLNT仮説については、報告書も「これは、科学的に証明された真実として受け入れられているのではなく、科学的な不確かさを補う観点から、公衆衛生上の安全サイドに立った判断として採用されている」と注意をうながしている。100mSv以下のリスクは疫学的に検出できないのだから、それが「科学的に証明された真実」であるかどうかは今後ともわからないだろう。
しかし行政としては「証明できないものは存在しない」という立場をとることはできないので、避難指示の参考レベルとして20mSvという(これ自体は科学的根拠のない)数字を決めている。この線量基準は「法律で決まっている」ものではなく、行政が避難指示を行なう場合の目安に過ぎない。この点についても、報告書は説明している:
- 参考レベルとは、経済的及び社会的要因を考慮しながら、被ばく線量を合理的に達成できる限り低くする“最適化”の原則に基づいて措置を講じるための目安である。
- 参考レベルは、ある一定期間に受ける線量がそのレベルを超えると考えられる人に対して優先的に防護措置を実施し、そのレベルより低い被ばく線量を目指すために利用する。
- したがって、参考レベルは、すべての住民の被ばく線量が参考レベルを直ちに下回らなければならないものではなく、そのレベルを下回るよう対策を講じ、被ばく線量を漸進的に下げていくためのものである。
- 参考レベルは、被ばくの“限度”を示したものではない。また、“安全”と“危険”の境界を意味するものでは決してない。
なおこの報告書には、海外の専門家からのコメントも寄せられている。その中で、チェルノブイリ事故について25年にわたって追跡調査を行なってきたサンクトペテルブルグ放射線衛生研究所のミハイル・バロノフ教授は、次のように指摘している:
チェルノブイリ周辺の放射性セシウムに晒された地域の居住者の長期被ばくがどのような影響を与えたかについて、25 年間にわたる細心の医学的経過観察および科学研究は、ブリャンスク地域の人口における特別の疾患の増加を示しませんでした。また、最近、最も権威のある国際的な専門家により行われた、ベラルーシ、ロシアおよびウクライナにおけるチェルノブイリ事故の健康影響の評価でも同様でした。1986 年のロシアのブリャンスク地域における被ばく状況の比較と2011 年の福島県の比較から、日本の人口における放射線起因の特別の疾患の増加はありそうもないということができます。史上最悪の原発事故だったチェルノブイリでも、慢性被曝による発癌率の増加は観察されていないので、福島でも今回の事故による発癌リスクはないと考えてよい。これは朝日新聞などのメディアは報じないが、多難だった今年の最大のグッドニュースである。
この報告書を批判するのは結構だが、「原子力村の御用学者の話は信用できない」などという陰謀論ではなく、科学的事実によって反論してほしい。こうした科学的データについては、1月2日にスタートするGEPRで紹介する予定である。