通常国会は始まった早々、野党が全面対決モードだ。「ねじれ」によって野党が拒否権をもっているため、全員一致でないと何も動かない。こういう状態は国会でも初めてではないが、日本の会社では日常的だ。経営の意思決定が各部門の代表者である役員によって行なわれ、彼らが全員一致しないと決定はできないからだ。日本企業の意思決定が遅く、思い切った決定ができない最大の理由が、この過剰なコンセンサスにある。
その原因は、契約理論で考えると明らかだ。ハートも示すように、全員が資産のコントロール権をもっている共同所有権においては全員が拒否権をもつので、誰か一人が反対すると資産が利用できなくなるからだ。ジョイント・ベンチャーをつくるとき50:50で出資すると、株主が喧嘩したとき何もできなくなり、会社を清算する意思決定もできない。
ところが拙著でも論じたように、日本の会社はこのようなホールドアップの起こりやすい構造を意図的に作り出している。たとえば部品を下請けに発注するとき、その設計図を下請けが描いて親会社が認める「承認図」というシステムは、技術情報を下請けがもっているので、納入価格などでもめて下請けが協力を拒否したら、すべてが止まってしまう。このように補完的な資産を独立に所有することも共同所有権と同じく非効率的だ。
しかし共同所有権が効率的になる場合がある。Halonen-Akatwijuka が示したように、取引が繰り返し行なわれ、長期的関係が続くという予想が共有されている場合には、共同所有権によって互いにホールドアップのリスクを高めると、裏切りによる損害が最大化になるので、双方とも協力する最善の状態が実現できるのだ。普通の所有権では次善の状態しか実現できないので、終身雇用や系列などの長期的関係は、利害の一致するときは高い効率を発揮する。
問題は、利害が一致しないときだ。垂直統合のように株主がすべてを決め、労働者がそれに従うというコントロール権の所在が決まっていると、リストラも事業売却も株主が決めることができるが、日本のように役員会も労使関係も全員一致でないと決まらない場合は、誰かにとって不利な決定は企業にとって有利であっても実行できない。経営が破綻して長期的関係が切れると、ホールドアップ問題が最大化されるのだ。
日本型の共同所有権は、自動車のように製品に補完性の強い場合には全員を協力関係にコミットさせることができるが、部品がモジュール化して外部オプションが大きくなると、裏切りによる「ねじれ」のリスクを最大化して、何も動かなくなる。ソニーの失敗は、この問題の教科書的な実例である。
出井伸之氏がカンパニー制を導入したとき、彼は各カンパニーの意思決定を独立にする一方で、社内の調達などの相互依存関係には手をつけなかった。たとえばテレビを製造するカンパニーが液晶を半導体カンパニーから調達しなければならないと、価格交渉が決裂するとテレビはつくれなくなる。PSXとスゴ録を別々のカンパニーが同時に出そうとしたとき、対等なカンパニーが話し合っても答が出るわけがない。
霞ヶ関のスパゲティ型の意思決定も、各省折衝で関係省庁がすべて一致しない法案は葬られるという強い補完性を作り出すことによって根回しのインセンティブを強めるメカニズムだが、これが機能するのも自民党政権のもとで各省間の「貸し借り」が引き継げる場合に限られる。政権交代によって長期的関係が崩れると、何も決まらなくなる。ねじれているのは国会だけではないのだ。
この全員一致システムは、中間集団の自律性が強い日本社会の伝統的な構造にも依存しているので、変えることは容易ではないが、まず各省庁という中間集団で意思決定が行なわれるシステムを是正して政治主導を実現することが第一だろう。そのために必要なのは「強いリーダー」だが、小沢一郎氏の処遇ひとつ決めるのに半年以上かかっている民主党にそれを求めるのは絶望的である。
ところが拙著でも論じたように、日本の会社はこのようなホールドアップの起こりやすい構造を意図的に作り出している。たとえば部品を下請けに発注するとき、その設計図を下請けが描いて親会社が認める「承認図」というシステムは、技術情報を下請けがもっているので、納入価格などでもめて下請けが協力を拒否したら、すべてが止まってしまう。このように補完的な資産を独立に所有することも共同所有権と同じく非効率的だ。
しかし共同所有権が効率的になる場合がある。Halonen-Akatwijuka が示したように、取引が繰り返し行なわれ、長期的関係が続くという予想が共有されている場合には、共同所有権によって互いにホールドアップのリスクを高めると、裏切りによる損害が最大化になるので、双方とも協力する最善の状態が実現できるのだ。普通の所有権では次善の状態しか実現できないので、終身雇用や系列などの長期的関係は、利害の一致するときは高い効率を発揮する。
問題は、利害が一致しないときだ。垂直統合のように株主がすべてを決め、労働者がそれに従うというコントロール権の所在が決まっていると、リストラも事業売却も株主が決めることができるが、日本のように役員会も労使関係も全員一致でないと決まらない場合は、誰かにとって不利な決定は企業にとって有利であっても実行できない。経営が破綻して長期的関係が切れると、ホールドアップ問題が最大化されるのだ。
日本型の共同所有権は、自動車のように製品に補完性の強い場合には全員を協力関係にコミットさせることができるが、部品がモジュール化して外部オプションが大きくなると、裏切りによる「ねじれ」のリスクを最大化して、何も動かなくなる。ソニーの失敗は、この問題の教科書的な実例である。
出井伸之氏がカンパニー制を導入したとき、彼は各カンパニーの意思決定を独立にする一方で、社内の調達などの相互依存関係には手をつけなかった。たとえばテレビを製造するカンパニーが液晶を半導体カンパニーから調達しなければならないと、価格交渉が決裂するとテレビはつくれなくなる。PSXとスゴ録を別々のカンパニーが同時に出そうとしたとき、対等なカンパニーが話し合っても答が出るわけがない。
霞ヶ関のスパゲティ型の意思決定も、各省折衝で関係省庁がすべて一致しない法案は葬られるという強い補完性を作り出すことによって根回しのインセンティブを強めるメカニズムだが、これが機能するのも自民党政権のもとで各省間の「貸し借り」が引き継げる場合に限られる。政権交代によって長期的関係が崩れると、何も決まらなくなる。ねじれているのは国会だけではないのだ。
この全員一致システムは、中間集団の自律性が強い日本社会の伝統的な構造にも依存しているので、変えることは容易ではないが、まず各省庁という中間集団で意思決定が行なわれるシステムを是正して政治主導を実現することが第一だろう。そのために必要なのは「強いリーダー」だが、小沢一郎氏の処遇ひとつ決めるのに半年以上かかっている民主党にそれを求めるのは絶望的である。