NHKオンデマンドが、サービス開始から1年たって140万アクセスと低迷している。これはBBCのiPlayerが1日1000万ページビューを超えるのに比べるべくもないばかりか、当ブログの1ヶ月のアクセスにも及ばない。
こういうことになった原因は、簡単である。経営陣がネット配信を本気でやるつもりがないからだ。ネット配信の話は5年以上前からあり、当初はマイクロソフトがウィンドウズのアプリケーションとして、丸抱えで「NHKオンデマンド」(この名前はそのときできた)のシステムを構築した。ところが当時の責任者がWindows Expoでこのプロモーションをやったところ、理事会で「公共放送がマイクロソフトのアプリケーションになるのはけしからん」と問題になり、この構想は立ち消えになってしまった。
その後はオンライン配信するめどが立たないまま、「アーカイブ」の建設だけが進められた。通信キャリアやISPなどから、コストをすべて負担してもいいから配信させてほしいというオファーはたくさんあったが、「公共放送」の建て前から自力でやることになり、「民業圧迫」しないように別会社で配信事業がスタートした。おまけに、すべてのコンテンツについて「肖像権」をクリアしないと配信しないという基準をつくって権利処理のハードルを上げたため、ラインナップも3000本しかない。アーカイブには60万本以上の番組があるのに、その0.5%しか配信できないのだ。
日本が「コンテンツ産業」で生きていく上で最大の問題は、NTTの再々編などのインフラではなく、このように前時代的な規制によって大部分のコンテンツが死蔵されていることだ。その最大のボトルネックは、NHKが特殊法人として強い規制を受け、自由なビジネス展開ができないことにある。島桂次会長のころは、MICOというダミー会社をつくってグローバル展開する壮大な構想があり、住友銀行などの出資によって積極的にビジネスを進めたが、それも島の失脚によって消えてしまった。
本来は放送をデジタル化するときインフラを通信衛星に集約し、地上波はすべて移動体通信に明け渡せば、放送業界も通信業界も今よりはるかに効率の高いオペレーションができたはずたが、地デジという非効率な国営インフラを建設してしまったため、にっちもさっちも行かなくなった。こうして変化を拒否してきたことが、海老沢会長の残した最大の負の遺産である。
それを見直してNHK民営化を進めるはずだった「竹中懇談会」も、小泉首相に待ったをかけられて挫折し、NHKは逆に受信料に罰則を設けるなど「国営化」の方向に舵を切って、経営は完全に行き詰まってしまった。おまけに背任事件で会長が退陣してからは「コンプライアンス」が最優先の経営方針となり、新事業は凍結されて「失われた20年」が続いてきた。
日本が成長力を取り戻すには、比較優位のあるコンテンツ分野で、既存のソフトウェア資産を生かす制度設計が必要だ。それには電波の開放でチャンネルを増やすとともに、既存のコンテンツを利用する障害になっている著作権などの制約を緩和する法改正が必要だろう。放送業界がネット配信いじめのために騒いだ「自動公衆送信」の制限が、今では彼らのネットビジネスの障害になっているのだ。
他方、アメリカではコムキャストがNBCを買収して世界最大のメディア企業が誕生した。その売り上げは500億ドルと、日本の放送業界の合計より大きい。メディア産業は権利処理のオーバーヘッドのために規模の経済が大きく、これから世界規模でメディア再編が進むだろうが、日本は蚊帳の外だ。コンピュータ、通信に続いて放送も世界市場の負け組になり、日本のIT産業には何が残るのだろうか。
こういうことになった原因は、簡単である。経営陣がネット配信を本気でやるつもりがないからだ。ネット配信の話は5年以上前からあり、当初はマイクロソフトがウィンドウズのアプリケーションとして、丸抱えで「NHKオンデマンド」(この名前はそのときできた)のシステムを構築した。ところが当時の責任者がWindows Expoでこのプロモーションをやったところ、理事会で「公共放送がマイクロソフトのアプリケーションになるのはけしからん」と問題になり、この構想は立ち消えになってしまった。
その後はオンライン配信するめどが立たないまま、「アーカイブ」の建設だけが進められた。通信キャリアやISPなどから、コストをすべて負担してもいいから配信させてほしいというオファーはたくさんあったが、「公共放送」の建て前から自力でやることになり、「民業圧迫」しないように別会社で配信事業がスタートした。おまけに、すべてのコンテンツについて「肖像権」をクリアしないと配信しないという基準をつくって権利処理のハードルを上げたため、ラインナップも3000本しかない。アーカイブには60万本以上の番組があるのに、その0.5%しか配信できないのだ。
日本が「コンテンツ産業」で生きていく上で最大の問題は、NTTの再々編などのインフラではなく、このように前時代的な規制によって大部分のコンテンツが死蔵されていることだ。その最大のボトルネックは、NHKが特殊法人として強い規制を受け、自由なビジネス展開ができないことにある。島桂次会長のころは、MICOというダミー会社をつくってグローバル展開する壮大な構想があり、住友銀行などの出資によって積極的にビジネスを進めたが、それも島の失脚によって消えてしまった。
本来は放送をデジタル化するときインフラを通信衛星に集約し、地上波はすべて移動体通信に明け渡せば、放送業界も通信業界も今よりはるかに効率の高いオペレーションができたはずたが、地デジという非効率な国営インフラを建設してしまったため、にっちもさっちも行かなくなった。こうして変化を拒否してきたことが、海老沢会長の残した最大の負の遺産である。
それを見直してNHK民営化を進めるはずだった「竹中懇談会」も、小泉首相に待ったをかけられて挫折し、NHKは逆に受信料に罰則を設けるなど「国営化」の方向に舵を切って、経営は完全に行き詰まってしまった。おまけに背任事件で会長が退陣してからは「コンプライアンス」が最優先の経営方針となり、新事業は凍結されて「失われた20年」が続いてきた。
日本が成長力を取り戻すには、比較優位のあるコンテンツ分野で、既存のソフトウェア資産を生かす制度設計が必要だ。それには電波の開放でチャンネルを増やすとともに、既存のコンテンツを利用する障害になっている著作権などの制約を緩和する法改正が必要だろう。放送業界がネット配信いじめのために騒いだ「自動公衆送信」の制限が、今では彼らのネットビジネスの障害になっているのだ。
他方、アメリカではコムキャストがNBCを買収して世界最大のメディア企業が誕生した。その売り上げは500億ドルと、日本の放送業界の合計より大きい。メディア産業は権利処理のオーバーヘッドのために規模の経済が大きく、これから世界規模でメディア再編が進むだろうが、日本は蚊帳の外だ。コンピュータ、通信に続いて放送も世界市場の負け組になり、日本のIT産業には何が残るのだろうか。