私が2年前の記事で「スパコンの戦艦大和」と批判した京速計算機が、行政刷新会議の事業仕分けで事実上の打ち切りが決まった。これに対して理研の野依所長は「スパコンなしで科学技術創造立国はありえない」と憤慨していたそうだが、これは筋違いである。問題点は4つある。
  • 予定した性能が実現できるのか:事業仕分けでは「世界一に意味があるのか」という疑問が出たというが、そもそも京速は世界一になるかどうかが疑わしい。今年6月のTop500リストのトップは、IBMのRoadrunnerの1.1PFLOPS。NECと日立が脱落して設計が根本的に変更され、110TFLOPSの実績しかない富士通が単独で設計をやり直して、その100倍の性能が2年で実現できるとは思えない。

  • スパコンは道具にすぎない:理研で行なうのは学問研究であって、コンピュータ開発ではない。ハードウェアは道具にすぎないのだから、国際入札でもっとも低価格の機材を導入するのが世界の常識だ。たとえば韓国の気象庁は今年、クレイの600TFLOPS機を4000万ドル(約36億円)で導入した。これに対して、京速が予定どおりの性能を実現したとしても、そのコストは1230億円。TFLOPS単価は、クレイの600万円に対して京速は1230万円で、ムーアの法則で割り引くと4倍だ。

  • 調達に談合の疑いがある:理研の京速プロジェクトリーダーである渡辺貞氏は、元NECの社員。ITゼネコンの元社員が随意契約で外資を排除し、自社を含む3社に共同発注したことは、談合の疑いがある。官公庁では、1000億円を超える調達を随契で行なうことは許されないが、このルールを理研というダミーを使って逃れたのではないか。これはITゼネコンがよく使う手口で、デジタルニューディールで富士通が国際大学GLOCOMをダミーに使ったのと同じだ。

  • 「日の丸技術」の開発には意味がない:スパコンというのは、きわめて特殊な科学技術用コンピュータであり、世界で年間数十台しか売れないものだ。富士通がクレイの4倍以上のコストのスパコンを開発しても、世界市場では売れない。日本の大学でも中規模のスパコンをリースで利用するのが常識であり、このような「日の丸技術」の開発にはビジネス的な意味もない。
以上のような問題点は、財務省の作成した行政刷新会議の資料でも指摘されている。幸か不幸か、建物はもうできてしまったので、中身は汎用のデータセンターにすればよい。国際入札をやり直せば、実用的な性能は100億円以内で実現できるだろう。その差額の1100億円を研究やソフトウェア開発にかけるほうが、理研にとっても効率的である。