法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

吉田清治証言に対するNHKの態度なんて、誰もおぼえちゃいなかった

9月27日の赤旗が従軍慰安婦問題についてまとめ、日本に向けられている批判をかわすことはできないことを指摘していた。
歴史を偽造するものは誰か/――「河野談話」否定論と日本軍「慰安婦」問題の核心

この「吉田証言」については、秦郁彦氏(歴史研究家)が92年に現地を調査し、これを否定する証言しかでてこなかったことを明らかにしました(「産経」92年4月30日付)。また、「慰安婦」問題に取り組んできた吉見義明中央大教授は、93年5月に吉田氏と面談し、反論や資料の公開を求めましたが、吉田氏が応じず、「回想には日時や場所を変えた場合もある」とのべたことなどから、「吉田さんのこの回想は証言としては使えないと確認する」(『「従軍慰安婦」をめぐる30のウソと真実』97年6月出版)としました。

 「吉田証言」の信ぴょう性に疑義があるとの見方が専門家の間で強まり、一方で元「慰安婦」の実名での告発や政府関係資料の公開などによって、「慰安婦」問題の実態が次々に明らかになるなかで、日本軍「慰安婦」問題の真相究明のうえで、「吉田証言」自身が問題にされない状況がうまれていたのです。

 そうした状況のなかで、93年8月に発表された「河野談話」は、その作成の過程で、「吉田証言」をどのように扱ったのでしょうか。問題の核心はここにあります。この点で、9月11日に放映されたテレビ朝日系「報道ステーション」の「慰安婦」問題検証特集は、当時、官房副長官として「河野談話」作成に直接かかわった石原信雄氏の注目すべき証言を紹介しました。

 そこで石原氏は、「吉田証言」について「あれはこう、なんていうか、眉唾(まゆつば)もんだというふうな議論はしていましたね、当時から」とのべ、日本政府として「吉田証言」をはなから問題にしていなかったことを明らかにしました。

 そのうえで石原氏は、「吉田証言をベースにして韓国側と議論したということは、私はありません」「繰り返し申しますが、河野談話の作成の過程で吉田証言を直接根拠にして強制性を認定したものではない」と明言しました。

吉田証言の日本社会における影響力が小さいこと、現在までの学問的知見がゆらぐわけではないことを指摘。それを主軸にするかたちで、日本批判への反論にはなりえないことをていねいに説明している。
そして末尾に、赤旗も過去報道を取り消すという記述と、それについての詫びがある。

 「しんぶん赤旗」は、吉田清治氏の「証言」について、日曜版92年1月26日号、日刊紙93年11月14日付でそれぞれとりあげたほか、日刊紙92年1月17日付では著書を紹介しています。93年11月の記事を最後に、「吉田証言」はとりあげていません。

 別掲論文で明らかにしたように、「吉田証言」は、研究者らによって否定され、「河野談話」でも根拠にされませんでした。吉田氏自身がのちに、「本に真実を書いても何の利益もない」「事実を隠し、自分の主張を混ぜて書くなんていうのは、新聞だってやることじゃありませんか」(『週刊新潮』96年5月2・9日号)などとのべています。

 「吉田証言」は信ぴょう性がなく、本紙はこれらの記事を掲載したことについて、お詫(わ)びし、取り消します。

朝日検証の済州島記事*1は膨大な特集全体の一部ということもあり、吉田証言の重要性は別記事とてらしあわせて理解させるものだった。既存の知見のまとめとはいえ、今回の赤旗記事は問題の所在を理解しやすいつくりになっている。


ところがこの赤旗記事に対して、NHKが吉田証言取り消し部分のみを報じていた。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140929/k10014977911000.html

日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」は、いわゆる従軍慰安婦の問題を巡り、「慰安婦を強制連行した」とする男性の証言を取り上げた記事について、「証言は信ぴょう性がない」として記事を取り消し謝罪しました。

「しんぶん赤旗」は今月27日の紙面で、朝日新聞が「慰安婦を強制連行した」とする男性の証言に基づく記事を取り消したことをきっかけに、いわゆる「河野官房長官談話」を否定する動きが出ているとして反論する記事を掲載しました。
このなかで、「しんぶん赤旗」が1992年と93年に合わせて3回、この男性の証言や著書を取り上げた記事について「証言は信ぴょう性がない」として、これらの記事を取り消し謝罪しました。
これについて赤旗編集局は「赤旗でも過去の報道の検証が必要だと判断したもので、河野談話に対する攻撃に反論する必要もあると考えた」と話しています。

これで全文である。
たしかに朝日検証に対しても過去報道取り消し記事にばかり注目されていた。朝日検証で明らかにされた新たな知見は無視されるどころか、そうした新たな知見の掲載は潔くないと主張する池上彰氏のコラムの掲載をせまられた。
「(池上彰の新聞ななめ読み)慰安婦報道検証」について - 法華狼の日記
しかし、朝日新聞と比べても報じた回数が少ない赤旗に対してまで、NHKが取り消し部分ばかり注目するのは理解に苦しむ。


このNHK報道は、ツイッターと連動しているらしい。

ツイートについている反応を見るかぎり、NHK自身の吉田証言報道に対する態度は知られていないか、忘れられているようだ。
http://www.47news.jp/CN/201409/CN2014090401001788.html

 旧日本軍の従軍慰安婦問題でNHKは4日、朝日新聞が「韓国・済州島で女性を強制連行した」とする日本人男性の証言を虚偽と判断して記事を取り消したことに関連し、この男性のインタビューを1991年のニュースで取り上げていたと明らかにした。

 編成局の松坂千尋計画管理部長は「現時点で(証言は)事実ではないと思っている」とした上で「同じニュースの中で日本政府見解などさまざまな見方も踏まえて報じており、訂正は考えていない」と述べた。

 証言を取り上げたのは91年11月のニュース。元慰安婦らが補償を求め日本政府を提訴する動きを扱ったニュースで、男性のインタビューを放送した。

周知のため、今後は他メディアが吉田証言にふれるたびにNHK自身の見解をくりかえし報じるべきだろう。本当に吉田証言に対するメディアの態度が重要だというならば。