2013年 03月 07日
テクノロジー革命の功罪:雇用は維持される? |
今日の横浜北部は・・・・春です。春を感じてます。
さて、またまたテクノロジーと雇用問題に関するものとしてロイターのフリーランド女史の言説を。
去年の九月の記事なのでちょっと古い話かもしれませんが、テクノロジーの社会的なインパクトという意味では数年後でも読める内容かと。
===
テクノロジーは、奇跡であり重荷だ
By クリスティア・フリーランド
●われわれが生きている現代の一つの大きなパラドックスは、経済面でのポジティブなイノベーションが起こっていると同時に、中間層の家族の多くの生活レベルが痛みを伴いながら衰退しつつある事態に直面しながら生きているということだ。
●ユーリ・ミルナー氏はロシアのネット関連企業への投資家だが、去年の九月に開催されたあるカンファレンスでは、彼はこのパラドックスを劇的な形で表現している。
●ミルナー氏は国内・海外のネット関連企業への起業投資で成功したロシアでも草分けの億万長者であり、たとえば海外の投資先にはフェイスブックやジンガ、それにグルーポンなどがある。
●ミルナー氏の言う「テクノロジー革命」とは、まさに人類史上前例のないものであり、消費者にとって驚くべき節約と利益をもたらすもの、というイメージである。
●ところがこの同じものが中間層の仕事に与える影響について経済学者に聞いてみると、一気にその熱狂は冷めてしまう。ミルナー氏が描いている「革命」は、西側の工業国の経済の動きの大きな変化の一部であり、それは中間層を空洞化させてしまうものだからだ。
●テクノロジー革命はあまりにも身近なものになってしまったために、祖母がフェイスブックに登録していたり、乳幼児が親のiPadを使いこなしているのも珍しくないほどで、それがどれほど革命的なのかを忘れさせてしまうほどだ。
●ところがミルナー氏は、ウクライナの資産家であり慈善家のヴィクター・ピンチュック氏が主催した年次総会の席上で、「われわれの生活を激変させるテクノロジー革命はまだ始まったばかりだ」と述べている(ここで告白:実は私はこのカンファレンスのいくつかのセッションで司会をつとめた)
●ミルナー氏はこの時に、現在のビジネスのイノベーションには三つの大きな「ストーリー」があると指摘していた。その三つのとは、
1、プラットフォーム
2、フリー(無料)
3、E-コマース
である。
●まず一つ目の「プラットフォーム」だが、ミルナー氏によれば、これはネット企業が他人の業績とアイディアを使ってビジネスモデルを構築してブレイクスルーを実現できる能力のことだ。
●この一例がアマゾンだ。ミルナー氏は「このプラットフォーム上で200もの独立業者が毎日販売を行っているのです。この年間の売上高は250億(23兆円)ドルにもなります。もしこの業者がすべてビルに入ったとしたら、マンハッタン島のすべての空間と同じくらいの広さが必要になります」と述べている。
●ミルナー氏のいうネット革命の二つ目が「フリー」である。ここでもまたミルナー氏は人類史上前例のないことが起こっていると言っており、革命的な「フリー化」のおかげで、巨大な世界ブランドがたった一夜にして誕生する可能性もでてきたというのだ。
●ミルナー氏の指摘する三つ目のトレンドは「E-コマース」というかなりわかりやすいものだ。もちろんこれは全く新しい手法というわけではないのだが、ミルナー氏が新しいと感じるのは、それが商業面において脇役から主役に移りつつあるということだ。
●ミルナー氏の推測によれば、今日現在の小売業の販売のうちの6%がオンライン上で行われているという。彼はこの割合が今後十年以内に20%に上がると見ており、20年以内には50%になると考えている。
●このシフトは世界経済に莫大かつポジティブなインパクトを与え、その効率性は8%上がる、というのが彼の主張である。
●もう一つの彼の予測はあまり嬉しくないものだ。「小売業ではかなりの職が失われることになり、その数は次の20年間で4000万人にものぼるだろう」というものだからだ。
●ミルナー氏は、彼が生きてきた時代の三つの大きな革命――共産党政権の崩壊、グローバル化、そしてテクノロジー革命――で勝利を収めてきたので、小売業の失業は最終的によい結果をもたらすと考えているようだ。つまり、収入の少ない小売業の仕事の代わりに高収入のテクノロジー系の仕事に置き換えられるということだ。
●ところが西側先進国の労働市場におけるグローバル化とテクノロジー革命のインパクトを研究している経済学者たちたちは、それほど楽観的では(少なくとも短期的には)ない。
●ロンドン大学経済学部のジョン・ヴァン・リーナン教授は、この変化についての研究の第一人者なのだが、彼はEコマース革命や、それに対する法律や会計の分野への最大のインパクトは、その経済の中における職の数ではなく、むしろ社員への給料の支払いに対するものだというのだ。
●「心配なのは、職の数ではなく、仕事の質のほうです。新しい職種はもちろん登場するでしょう。しかしそれらはあまり魅力的な職種とはならないでしょうね」と彼はロンドンから電話で答えてくれた。
●彼によればこのトレンドすでに始まっており、社会的・政治的にも深い影響を与えはじめているという。「これはすでに始まっている中間層の空洞化であり、彼らにとっては家族を支えることがますます難しくなっているのです」とのこと。
●実はわれわれはこのようなパラドックス的な状況を以前に経験したことがある。アメリカの経済学者で政治家だったヘンリー・ジョージは、19世紀にアメリカで起こっていた混乱的な変化について、自身の1879年のベストセラー本のタイトルである『進歩と貧困:産業不況の原因、欠乏と富の増加についての研究、そしての解決法』という名前で上手く表現している。
●今日における政治・経済の問題の受け入れを難しいのは、このスリリングなイノベーションと中間層の空洞化という二つのトレンド――「進歩」と「貧困」――が互いに相容れないものだ、というところにあるわけではない。実際のところ、この二つは同じコインの裏表なのだ。
●イノベーションが起こっているホットな場所や、逆にその有害な影響が最も強く感じられる取り残された場所であれ、われわれはこのパラドックス的な事実について語るのを避けている。
===
このようなテクノロジーの社会的なインパクトというのは、戦略学の世界ではRMAなどの議論によって2000年代前半に一段落したような状況が見受けられますが、ここで最も大事なのは「易不易」、つまり「変わるもの」と「変わらないもの」を見極めることなんですよね。
で、これにたいする今後のキャリア対策としては二種類ありまして、テクノロジーの最先端を追いかけるという「変わるもの」を追求するやり方と、逆にロボットやネットでも置き換えられない「変わらないもの」を中心とした職種を目指すというものがあるわけです。
しかし長期的にみると、やっぱり人間としては「変わらないもの」を持っておくほうが強いということになりますね。
そしてそのために決定的に必要となってくるのが「累積戦略」である、というのが私のとりあえずの結論です。
さて、またまたテクノロジーと雇用問題に関するものとしてロイターのフリーランド女史の言説を。
去年の九月の記事なのでちょっと古い話かもしれませんが、テクノロジーの社会的なインパクトという意味では数年後でも読める内容かと。
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テクノロジーは、奇跡であり重荷だ
By クリスティア・フリーランド
●われわれが生きている現代の一つの大きなパラドックスは、経済面でのポジティブなイノベーションが起こっていると同時に、中間層の家族の多くの生活レベルが痛みを伴いながら衰退しつつある事態に直面しながら生きているということだ。
●ユーリ・ミルナー氏はロシアのネット関連企業への投資家だが、去年の九月に開催されたあるカンファレンスでは、彼はこのパラドックスを劇的な形で表現している。
●ミルナー氏は国内・海外のネット関連企業への起業投資で成功したロシアでも草分けの億万長者であり、たとえば海外の投資先にはフェイスブックやジンガ、それにグルーポンなどがある。
●ミルナー氏の言う「テクノロジー革命」とは、まさに人類史上前例のないものであり、消費者にとって驚くべき節約と利益をもたらすもの、というイメージである。
●ところがこの同じものが中間層の仕事に与える影響について経済学者に聞いてみると、一気にその熱狂は冷めてしまう。ミルナー氏が描いている「革命」は、西側の工業国の経済の動きの大きな変化の一部であり、それは中間層を空洞化させてしまうものだからだ。
●テクノロジー革命はあまりにも身近なものになってしまったために、祖母がフェイスブックに登録していたり、乳幼児が親のiPadを使いこなしているのも珍しくないほどで、それがどれほど革命的なのかを忘れさせてしまうほどだ。
●ところがミルナー氏は、ウクライナの資産家であり慈善家のヴィクター・ピンチュック氏が主催した年次総会の席上で、「われわれの生活を激変させるテクノロジー革命はまだ始まったばかりだ」と述べている(ここで告白:実は私はこのカンファレンスのいくつかのセッションで司会をつとめた)
●ミルナー氏はこの時に、現在のビジネスのイノベーションには三つの大きな「ストーリー」があると指摘していた。その三つのとは、
1、プラットフォーム
2、フリー(無料)
3、E-コマース
である。
●まず一つ目の「プラットフォーム」だが、ミルナー氏によれば、これはネット企業が他人の業績とアイディアを使ってビジネスモデルを構築してブレイクスルーを実現できる能力のことだ。
●この一例がアマゾンだ。ミルナー氏は「このプラットフォーム上で200もの独立業者が毎日販売を行っているのです。この年間の売上高は250億(23兆円)ドルにもなります。もしこの業者がすべてビルに入ったとしたら、マンハッタン島のすべての空間と同じくらいの広さが必要になります」と述べている。
●ミルナー氏のいうネット革命の二つ目が「フリー」である。ここでもまたミルナー氏は人類史上前例のないことが起こっていると言っており、革命的な「フリー化」のおかげで、巨大な世界ブランドがたった一夜にして誕生する可能性もでてきたというのだ。
●ミルナー氏の指摘する三つ目のトレンドは「E-コマース」というかなりわかりやすいものだ。もちろんこれは全く新しい手法というわけではないのだが、ミルナー氏が新しいと感じるのは、それが商業面において脇役から主役に移りつつあるということだ。
●ミルナー氏の推測によれば、今日現在の小売業の販売のうちの6%がオンライン上で行われているという。彼はこの割合が今後十年以内に20%に上がると見ており、20年以内には50%になると考えている。
●このシフトは世界経済に莫大かつポジティブなインパクトを与え、その効率性は8%上がる、というのが彼の主張である。
●もう一つの彼の予測はあまり嬉しくないものだ。「小売業ではかなりの職が失われることになり、その数は次の20年間で4000万人にものぼるだろう」というものだからだ。
●ミルナー氏は、彼が生きてきた時代の三つの大きな革命――共産党政権の崩壊、グローバル化、そしてテクノロジー革命――で勝利を収めてきたので、小売業の失業は最終的によい結果をもたらすと考えているようだ。つまり、収入の少ない小売業の仕事の代わりに高収入のテクノロジー系の仕事に置き換えられるということだ。
●ところが西側先進国の労働市場におけるグローバル化とテクノロジー革命のインパクトを研究している経済学者たちたちは、それほど楽観的では(少なくとも短期的には)ない。
●ロンドン大学経済学部のジョン・ヴァン・リーナン教授は、この変化についての研究の第一人者なのだが、彼はEコマース革命や、それに対する法律や会計の分野への最大のインパクトは、その経済の中における職の数ではなく、むしろ社員への給料の支払いに対するものだというのだ。
●「心配なのは、職の数ではなく、仕事の質のほうです。新しい職種はもちろん登場するでしょう。しかしそれらはあまり魅力的な職種とはならないでしょうね」と彼はロンドンから電話で答えてくれた。
●彼によればこのトレンドすでに始まっており、社会的・政治的にも深い影響を与えはじめているという。「これはすでに始まっている中間層の空洞化であり、彼らにとっては家族を支えることがますます難しくなっているのです」とのこと。
●実はわれわれはこのようなパラドックス的な状況を以前に経験したことがある。アメリカの経済学者で政治家だったヘンリー・ジョージは、19世紀にアメリカで起こっていた混乱的な変化について、自身の1879年のベストセラー本のタイトルである『進歩と貧困:産業不況の原因、欠乏と富の増加についての研究、そしての解決法』という名前で上手く表現している。
●今日における政治・経済の問題の受け入れを難しいのは、このスリリングなイノベーションと中間層の空洞化という二つのトレンド――「進歩」と「貧困」――が互いに相容れないものだ、というところにあるわけではない。実際のところ、この二つは同じコインの裏表なのだ。
●イノベーションが起こっているホットな場所や、逆にその有害な影響が最も強く感じられる取り残された場所であれ、われわれはこのパラドックス的な事実について語るのを避けている。
===
このようなテクノロジーの社会的なインパクトというのは、戦略学の世界ではRMAなどの議論によって2000年代前半に一段落したような状況が見受けられますが、ここで最も大事なのは「易不易」、つまり「変わるもの」と「変わらないもの」を見極めることなんですよね。
で、これにたいする今後のキャリア対策としては二種類ありまして、テクノロジーの最先端を追いかけるという「変わるもの」を追求するやり方と、逆にロボットやネットでも置き換えられない「変わらないもの」を中心とした職種を目指すというものがあるわけです。
しかし長期的にみると、やっぱり人間としては「変わらないもの」を持っておくほうが強いということになりますね。
そしてそのために決定的に必要となってくるのが「累積戦略」である、というのが私のとりあえずの結論です。
by masa_the_man
| 2013-03-07 15:34
| 日記