与謝野経済財政担当相が、公的年金の支給年齢引き上げに言及した。〈 人生90年を前提に定年延長も考えなければならない。それにより年金支給年齢の引き上げも考えられる 〉(『日本経済新聞』1月22日朝刊)
与謝野氏は、菅直人首相が三顧の礼を持って引き抜いた「敵軍の軍師」だ。自らの立場を意識しているためか、あるいは単に思ったことは黙っていられないご性格なのか、大臣就任以来、与謝野氏は、あたかも総理のように、重要政策について語り始めている。菅首相は、今のところこれを野放しにしている。
しかし、年金支給年齢の引き上げを今の段階で語るのは、かなり危険な発言だ。フランスなどの例を見ても、年金は、世論の反発を買って社会が不安定化し、政権が一つふっ飛びかねない重大テーマである。思い起こすと、景気が悪化した中での前回総選挙だったが、世論調査では国民の要望は、景気対策よりも年金問題の解決だった。
いずれにせよ、支給年齢の引き上げは、高齢者予備軍の将来の生活不安に直結しかねない問題だ。この問題は、他の年金改革との整合性や議論の順番を考えたうえで語るべきだろう。改造内閣の歩み出しは、見るからに危ない。
くわえて、与謝野氏は、公的年金改革に関しても、民主党が前回総選挙のマニフェストに掲げた税金を財源とする最低保障年金構想をばっさり切り捨てて、「(現行の)社会保険料方式が現実的だ」と述べている。
これは、少なくとも、政権内で調整したうえで話すべき内容だろう。年金改革について、実現をはなから諦めているならともかく、過去の民主党の主張との隔たりが大きすぎる。しかし、菅首相は与謝野氏に注意を与えるわけでもないし、その発言を訂正するわけでもない。
菅首相は、与謝野氏を、政策論に関する議論や合意抜きに閣内に招き入れたのかも知れない。しかも、招き入れた立場上、与謝野氏に対して強く出ることができない。さらに与謝野氏は強硬な財政再建論者であり、官僚の受けがいいし、政策に関しては少なくとも菅氏よりも弁が立つ。
それにしても、与謝野氏の閣内受け入れは、民主党として、これまで掲げた政策の大半を撤回して白旗を掲げるに近い。さすがに、この政権は長く保たないのではないか。