読書記録

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10冊目 銃・病原菌・鉄(下) 著者 ジャレド・ダイアモンド 訳者 倉骨彰 草思社文庫 2012

白人優位になった理由を、根源的な原因にさかのぼり、突き詰め続けた本書。

 

その最終的な結論が、非常に科学的なのです。

 

結論として、本書では4点あげています。

 

「まず第一に、栽培化や家畜化の候補となりうる動植物種の分布状況が大陸によって異なっていた」(下巻第366頁)ことです。

 

まず、栽培できる植物種についてです。

 

実は、「地中海性気候の肥沃三日月地帯には作物化することのできる野生種が豊富に分布してい」(上巻第251頁)ました。

 

イネ科の中でも大きな種子を持つ種は56種あるそうなのですが、そのうち、32種が、「肥沃三日月地帯か西ユーラシアの地中海性気候地帯に集中」(上巻第252頁)していました。

 

「これに対して、チリの地中海性気候地域には五六種中たった二種が自生しているだけであり、カリフォルニアと南アフリカにはそれぞれ一種が自生しているだけで」(上巻第254頁)した。

 

同様に家畜化できる動物の分布についても見ていきます。

 

本書では、世界で家畜化されている動物のことをまとめて、「由緒ある十四種」と呼んでいますが、まず「ユーラシア大陸には『由緒ある十四種』のうちメジャーな五種をふくむ十三種の野生祖先種がすべて生息してい」(上巻第297頁)ました。

 

対して、「たとえば南米には、ラマとアルパカの野生祖先種である動物が生息していただけであり、北米、オーストラリア、そしてアフリカ大陸のサハラ砂漠以南の地域には、『由緒ある十四種』のどれ一つとして生息してい」(上巻第297頁)ませんでした。

 

植物分布も動物分布も、食糧生産を開始するためには、ユーラシア大陸が圧倒的に有利だったのです。

 

また、病原菌という意味でも、「ユーラシア大陸を起源とする集団感染症の病原菌は、群居性の動物が家畜化されたときに、それらの動物が持っていた病原菌が変化して誕生したもので」(上巻第391頁)した。

 

すなわち、家畜化できる動物が少なかった南北アメリカ大陸の人々は、病原菌への抗体も持っていなかったのです。

 

続いて第二の条件です。

 

「伝播や拡散の速度を大陸ごとに大きく異ならしめた要因もまた重要である。この速度がもっとも速かったのはユーラシア大陸である。それは、この大陸が東西方向に伸びる陸塊だったからであり、生態環境や地形上の障壁が他の大陸よりも比較的少なかったから」(下巻第368~369頁)です。

 

「東西方向に経度が異なっても緯度を同じくするような場所では、日の長さ(日照時間)の変化や、季節の移り変わりのタイミングに大差がない。風土病や、気温の降雨量の変化、そして分布植物の種類や生態系も、日照時間や季節の移り変わりほどではないにしても、よく似たパターンを示す傾向にあ」(上巻第341頁)ります。

 

対して、「アフリカ大陸では、陸塊が南北方向に緯度をまたいで広がっていることと、地形や生態環境上の障壁が大きかったことのために、伝播に時間がかか」(下巻第369頁)り、「南北アメリカ大陸ではとりわけ伝播に時間がかか」(下巻第369頁)りました。

 

大陸の構造が、地域の発展に大きく左右したのでした。

 

「三つめの要因は、大陸内での伝播に影響をあたえた要因とかかわってくるが、異なる大陸間での伝播に影響をあたえたものでもある。大陸間における伝播の容易さは、どこも一様だったわけではない。地理的に孤立している大陸もあるから」(下巻第369頁)です。 

 

たとえば、ユーラシア大陸はどこも地続きなので、技術や文化が伝播しやすいですが、海洋を隔てる南北アメリカ大陸やオーストラリア大陸、またサハラ砂漠や熱帯雨林を隔てるサハラ以南のアフリカには、非常に伝播しにくい構造にあります。

 

この構造の違いが、大航海時代、南北アメリカはヨーロッパの植民地になったのに対し、ユーラシア大陸の極東部に属し、先進国であった中国と交流を持ち続けることのできた日本は、技術や文化に遅れをとらず植民地化を免れたということの大きな理由になるのではないか、と思っています。

 

「四つめの要因は、それぞれの大陸の大きさや総人口のちがいである。面積の大きな大陸や人口の多い大陸では、何かをする人間の数が相対的に多く、競合する社会の数力も相対的に多い。利用可能な技術も相対的に多く、技術の受け容れをうながす社会的圧力もそれだけ高い」(下巻第370頁)という要因です。

 

「世界の陸塊のうちで、面積がもっとも大きく、競合する社会の数がもっとも多かったのはユーラシア大陸で」(下巻第370頁)した。

 

対して、「オーストラリア大陸やニューギニアはユーラシア大陸よりも面積が小さく、タスマニア島などはきわめて小さかった。南北アメリカ大陸は、面積こそ大きかったが、地理的・環境的に分断されていて、実際には連続性のない二つの大陸として機能してい」(下巻第370頁)ました。

 

大陸の面積の大きさ自体も社会の構成に関わってくるというのが、本書の第四の結論です。

 

すなわち、「ある種の生活環境は、他の生活環境にくらべて、原材料によりめぐまれていたり、発明を活用する条件により恵まれていた。それだけのことである」(下巻第370頁)と結んでいます。

 

この環境要因が世界の状況を決めたという本書の主張。

 

この説得力の高さに、一度、本書をテーマにして授業を作り、難解になりすぎてしまったことがあったくらいです(笑)。

 

さて、最後に、本書では「肥沃三日月地帯や中国は、後発組のヨーロッパの数千年先を行っていた。それなのになぜ、彼らはその圧倒的なリードを徐々に失っていったのだろうか」(下巻第375頁)という疑問に答えています。

 

書評では、特に中国に着目しますが、「これらの謎を解く鍵は、船団の派遣の中止にある」(下巻第379頁)と言います。

 

明代の中国は、ヨーロッパよりも先に、アフリカ大陸まで、船団を派遣していました。しかしながら、中国では、トップの決定一つで、船団の派遣が中止されてしまいました。

 

「政治的に統一されていたために、ただ一つの決定によって、中国全土で船団の派遣が中止され」(下巻第380頁)てしまったのです。

 

逆にヨーロッパでは、何百人もいた王侯の一人をコロンブスが説得し、船団の派遣を行うことができました。

 

したがって、「政治や技術の分野において、中国が自分たちよりも遅れていたヨーロッパにリードを奪われてしまった理由を理解することは、すなわち、中国の長期にわたる統一とヨーロッパの長期にわたる不統一の理由を理解すること」(下巻第382頁)で説明ができるのです。

 

その理由を本書では、地形にみます。

 

「自然の障壁がさほどなく、地域の地理的結びつきが強かった」(第385頁)中国では、様々な技術や文化が発達したものの、統一が広い範囲に行われやすく「一人の支配者の決定が全国の技術革新の流れを再三再四止めてしまうようなことが起こ」(下巻第386頁)りました。

 

対して「分裂状態にあったヨーロッパでは、何十、何百といった小国家が誕生し、それぞれに独自の技術を競い合」(下巻第386頁)いました。

 

この地形的な理由が、ヨーロッパと中国の現在の置かれている状況の差異につながったというのが、本書の見立てです。

 

本書も、上記に紹介したマクニールの世界史と同様、自分の歴史観に大きな影響を与えた一冊になっています。