読書記録

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9冊目 銃・病原菌・鉄(上) ジャレド・ダイアモンド 訳者 倉骨彰 草思社文庫 2012

本書は、本書の著者がニューギニア人の友人ヤリから受けた「あなたがた白人は、たくさんのものを発達させてニューギニアに持ち込んだが、私たちニューギニア人には自分たちのものといえるものがほとんどない。それはなぜだろうか?」(上巻第24頁)という疑問意識から始まっています。

 

その疑問は、抽象的に言い換えれば、「世界の富や権力は、なぜほかの形で分配されなかったのか?たとえば、南北アメリカ大陸の先住民、アフリカ大陸の人々、そしてオーストラリア大陸のアボリジニが、ヨーロッパ系やアジア系の人々を殺戮したり、征服したり、絶滅させるようなことが、なぜ起こらなかったのだろうか?」(上巻第25頁)というものになります。

 

このことについて、白人優位主義者は、歴史的に「白人は優れていたからだ!」「その他の人種は劣っているのだ」という人種差別的な見方をしてきました。

 

白豪主義やアパルトヘイト、KKK等による白人至上主義運動は、その際たるものですよね。

 

本書では、そのような、白人が優位になったという結果からもたらされる人種差別的な見方を、科学的に批判します。

 

本書の結論は、「歴史は、異なる人びとによって異なる経路をたどったが、それは、人びとのおかれた環境の差異によるものであって、人びとの生物学的な差異によるものではない」(上巻第45頁)というものです。

 

では、その環境の差異とはどのようなものなのでしょうか。

 

全ての大陸で狩猟採集が行われ、人類の間にほとんど差異がなかった時代は、1万1千年頃でした。

 

「紀元前一万一〇〇〇年頃にタイムトラベルした考古学者は、どの大陸においても人間社会がもっとも早く発展しえたということはいえても、それがどの大陸であったかを特定することはできない」(上巻第94頁)との説明通り、大陸間での人々の生活の差異はほぼありませんでした。

 

それでは、いつ、白人優位は確定したのか。

 

それを本書では、「ヨーロッパ人による新世界の植民地化」(上巻第121頁)に見ます。

 

そして、中でもその際たる事例として、「ピサロが皇帝アタワルパを捕虜にできた」(上巻第147頁)ことをあげます。

 

では、ピサロがアタワルパを捕虜にできた要因とは何なのか。

 

本書では、その要因を、「鉄器・鉄製の武器、そして騎馬などにもとづく軍事技術、ユーラシアの風土病・伝染病に対する免疫、ヨーロッパの航海技術、ヨーロッパの集権的な政治機構、そして文字をもっていたこと」(上巻第147頁)であると結論づけます。

 

ここで大きな疑問が生まれます。

 

「それらの要因が新世界ではなく、なぜヨーロッパで生まれたのか」(上巻第147頁)、つまり「どの時点で、大きな差異が大陸間でできてしまったのか」という疑問です。

 

その疑問に答える上でもっとも大切な歴史事象は、食糧生産の開始でした。

 

「植物栽培と家畜飼育の開始は、より多くの食料が手に入るようになることを意味した。そしてそれは、人口が稠密化することを意味した。植物栽培と家畜飼育の結果として生まれる余剰食料の存在、また地域によってはそれを運べる動物の存在が、定住的で、集権的であり、社会的に階層化された複雑な経済的構造を有する技術革新的な社会の誕生の前提条件だったのである」(上巻第162頁)。

 

では、食料生産が開始され、ユーラシア大陸の人々が優位になった根本的な環境要因とは何なのか。

 

この疑問の答えを、下巻の紹介で記述していきます。

 

問いが問いを生み、実証的に解が出されていく。素晴らしい書籍だな、と思います。