世界シェアの頂点を極める製造現場において、半導体調達は単なる「部品の買い付け」ではありません。それは、製品の供給責任(アベイラビリティ)を自らコントロールし、競合他社に対して戦略的優位を築くための**「冷徹な知略の戦い」**でした。
かつて、年間数千万台という圧倒的な規模を動かしていた現場では、いかにして半導体を「抑えていた」のか。そこには、現在のラピダスやビッグテックの動きにも通ずる、半導体戦略の本質が眠っています。
SoC「1チップ化」がもたらした真の変革
当時、最も象徴的だったのはSoC(System on Chip)の1チップ化によるコストと供給の改革です。バラバラだった関連部品を、半導体メーカーと設計段階から深く「協業」し、1枚のチップへと集約していく。これは単なるコストダウンの手段ではありませんでした。
これを支えたのは、**設計・製造・購買が組織の垣根を超えて協力した、極めて高い次元での「協業体制」**です。
- 設計が踏み込む: 単に既存のチップを買うのではなく、半導体メーカーの設計段階から自社のエンジニアが入り込み、関連部品を1チップへ集約させる。
- 購買が仕掛ける: 機能を統合し、購買ボリュームを集中させることで、半導体メーカーにとっての「最重要顧客」としての地位を確立。優先的な生産枠(スロット)を勝ち取る。
- 製造が繋ぐ: 複雑な部品群を一箇所の供給ルートに集約することで、管理の解像度を劇的に高め、歩留まりとアベイラビリティを同時に向上させる。
この**「1チップ化」による差別化と供給の安定性確保**という姿勢は、まさに現在のAppleが自社製チップで行っていることの先駆けでした。
供給責任(アベイラビリティ):信頼という名の経済合理性と規模の論理
半導体メーカーにとって、年間数千万個というコミットメントは「拒否できない物語」です。この圧倒的な規模を背景に、平時から「急アクセル・急ブレーキ」に対応できる柔軟なアロケーション(配分)管理や、開発費の償却プランを合意しておく。この**「規模に基づく信認」**があったからこそ、未曾有の災害時にも、その力は発揮されました。
東日本大震災やタイの大洪水という極限状態において、供給が止まらなかったのは、単なる美談ではありません。そこには以下の徹底した仕組みがありました。
- トレーサビリティと透明性: 部品ごとにLT(リードタイム)や中間在庫水準を精緻に把握することで、急激な需要のアップダウンに対応する生産の柔軟性を確保していたこと。
- QCDを基盤としたQBR(Quarterly Business Review)の活用: 四半期ごとにQCD(品質・コスト・納期)スコアをフィードバック。目標達成度とギャップを徹底的に話し合い、次期に向けたKPI設定と改善アクションを共有する。この「厳格かつフェアな対話」が、ウィンウィンの関係を強固にしていました。
供給責任という「重圧」を引き受けられるか
現在のラピダスに問われているのは、2ナノという技術力以上に、**「世界の顧客の供給責任を背負う覚悟があるか」**という点です。
顧客はチップの性能だけを見ているのではありません。「有事の際、あるいは需要激増の際、このプラットフォームは自分たちを最後まで守り抜いてくれるか」というアベイラビリティへの信頼を見ています。 10兆円の公的支援で工場は建ちますが、**「設計から入り込み、顧客の供給リスクを自ら解決する」**という現場の知略と執念がなければ、TSMCという巨大な信認の壁を崩すことはできません。




















