柳沢吉保
やなぎさわよしやす
江戸幕府第5代征夷大将軍・徳川綱吉の時代に活躍した老中の一人。
その中でも特に綱吉から重用され、幕府内でも大きな権勢を振るったとされる。
綱吉とは若い頃は衆道の間柄だったともいわれ、好色家の綱吉のために見目麗しい美男美女を吉保が選別して綱吉へ宛がったとも伝わっている。
柳沢家は、元は甲斐国武田家の所属であったが、徳川家康が身寄りをなくした元武田家臣団の引き抜きをおこなった際、徳川家の臣下となる道を選んだ。
幼少期から館林藩主だった綱吉の小姓として側仕えし、綱吉が征夷大将軍に任ぜられると「側用人」と呼ばれる将軍直轄の秘書官を任されるようになった。
その後は出世街道を登り龍の如き勢いで駆け上がり、老中筆頭へと昇進する。
その後、江戸の要害である甲府15万石の大名へと上り詰めるが、綱吉が逝去すると僅か2年で老中職を辞し、家督を嫡男・吉里へ譲って隠居し、静かに余生を過ごしたという。
江戸時代の重役として賄賂を受け取っていたが彼は断れない賄賂以外は受け取らないようにして部下にも賄賂を受け取らない用に厳命していたらしい。
勤勉実直、誠実かつ忠義心に篤い人物だったとされる。
特に綱吉の政策においては、彼の粉骨砕身あって施行に至ったものも多いらしく、吉保が各所へ協力の打診や説得に回って円滑な政策実行を支えたともいわれる。
またこれほどの贔屓目があれば政敵も多いイメージだが、吉保を極度に敵視する家臣はほとんどおらず、その交渉手腕や処世術もかなり高いものだったと考えられる。
去就の判断も非常に的確と評され、特に綱吉亡き後に新井白石たちが台頭してきたのを見て、あっさりと辞職して家督を息子に譲り、政治の表舞台から潔く去った。
普通、ここまで大出世した人物の多くは、その地位を惜しんで新勢力と対立しがちであるが、吉保の早期辞職は甲府15万石の領地という柳沢家一の財産を安堵するに至っており、賢明な判断だといえよう。
余計な政争の勃発を避けたことは、世代交代に円滑を進め、幕政の混乱の予防にも繋がっている。
こうした面を見ても、大変に頭の回転の早く、自らの損得より大局を重視できる思考の持ち主だったといえる。
領民からも愛された良きお殿様だったという。
特に領地の増反政策に力を入れ、城下の整備、検地、用水路の整備などを、江戸から離れられなくとも熱心に指示していた伝わっている。
そして和歌に通じてその達者であり、儒教思想を重んじた文化人でもある。
後年に本駒込の「六義園」の造園に着手し、現在でも名刹として知られる庭園で知られる。隠居後はここでゆったりと余生を過ごしたといわれる。
……が
我々の知る柳沢吉保は、こんなに綺麗な人物として伝わっていない。
我々が知っている柳沢吉保とは、「綱吉の権勢を利用して江戸幕府を意のままに操る黒幕」という、実に腹黒で性根の曲がった冷酷な野心家といったイメージで伝わっている。
実像とイメージが食い違うのは歴史にはよくある話だが、こうまで極端な人物となるとこのあたりの人々を想起させる。
ここまで悪し様にヘイトが付きまとう理由はただ一つ。
綱吉のお気に入りだったからである。
そもそも綱吉は「犬公方」のあだ名で知られ、それまでの将軍とは一線を画す政策で国内を混乱させたとして、庶民には目の敵にされていた。
詳しくは綱吉の項目に譲るが、綱吉もただ勝手気ままに政治を混乱させていたのではなく、戦国時代の殺伐とした気風が抜けきらないことを憂いて、人徳を重んじる文化を根付かせるよう幕政にあたっていた。
内容が如何様であったとはいえ、綱吉の目論見は一応の成功をおさめ、死後も無益な殺生な捨て子の禁止は継続されるようになり、ようやく本当の意味で日本は太平の世へと移行している。
その綱吉の腹心である吉保も、綱吉の悪評にもろに巻き込まれた一人である。
もちろん、飛ぶ鳥を落とす勢いで出世を重ねた中で、酸いも甘いも噛み分け、ときに反則ギリギリの狡猾な手段に出たこともあったかもしれず、決してきれいなだけの人物ではないだろう。
しかし他の老中からの評判は概ね芳しく、極端な悪評も史実ではほぼ皆無、綱吉死後の派閥争いもあっさりと引き下がって家督も手放し、甲府15万石の安堵を第一に据え、政争を避けて世代交代を受け入れるなど、身の振り方も華麗である。
だが、ここでも『忠臣蔵』と『水戸黄門』という綱吉ヘイトの二大人気大衆劇が幅を利かせてしまい、柳沢吉保を「支配欲の怪物」として悪役に担ぎ出し、まるで憂さ晴らしのようにメタクソに叩いてしまっている。
「犬公方の政治は老中柳沢が諌めないせい」「幕府を牛耳って犬公方を操る面従腹背の悪党」と、とかく綱吉の執政への憤懣を全力でぶつけられている。
特に『水戸黄門』では後者の色がとても強く、中でもTBS版テレビドラマ『水戸黄門』では、綱吉が比較的名君寄りな思慮深い人物として描かれる形でフォローが入れられている為か、作中におけるヘイト役を一手に任された形となり、綱吉を言葉巧みに唆して悪政を執政させたり(作中では「生類憐れみの令」でさえも吉保ら老中が唆して施行させた事を示唆させている)、各藩で起こる揉め事を利用して自身の私利私欲を満たしたり、幕府内部での権力を更に向上させる事を画策したり、果てはそれらの企てに乗じて目の上の瘤に思っている光圀の失脚・暗殺を謀るなど、完全に巨悪のフィクサーとして描かれてしまっている。
それらのイメージは、当然ながら他の時代劇(『引っ越し大名!』など)にも取り込まれることになり、史実面の考証がなされないまま、「外道側近・柳沢吉保」としてお茶の間のテレビで醜態を晒され、すっかり悪役として定着してしまった。
前述のようにもともと柳沢氏は武田氏の家来筋であったが、武田信玄の玄孫である信興を旗本として再興させたのが吉保であった。
また吉保の孫である信鴻の四男・信明が嫡男のいなかった信興の養子となって以降は、血統上旗本武田氏は吉保の子孫となっている。
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