Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

人材流出阻止目的で臨時昇給を実施したら地獄の門が開きました。

会社が大荒れ。上層部が行った臨時昇給がその原因。一般的にポジティブなイメージのある昇給イベントで地獄になるのはめずらしいことである。説明しよう。当社は特に現場において人材不足状況が問題になっている。会社上層部は、人材流出阻止のため「ギリギリの経営判断で現場の皆様の昇給を決定いたしました」と社内メッセージを送り、現場社員を対象に臨時昇給を突如実施した。典型的なトップダウンである。

ところが昇給額が一律月2000円。しょぼすぎ。それを知った現場社員から「ギリギリに切り詰めて2000円なのか?」「2000円しょぼすぎないか?」「バカにされている気がする」など、絶望感が強まり、流出ムードが加速してしまった。最悪の結果だ。

僕ら部長クラスは、このトップダウン決定を事後に知らされた。事前に知っていたら、現場の反応と絶望を正確に予測できたし、昇給額が2000円ということもなかったし、最低でも「ギリギリの経営判断」という文面をメッセージから削除していただろう。いずれにせよ後の祭りだ。この決定に関わらずに済んだことを今は感謝している。残念ながら他人事というわけにもいかない。連休明けから営業部長の僕も現場からの「この会社の施策はふざけているのか」という声への対応に追われている。

1人月2000円であっても、相応の人数に支給するとなれば大きな金額になる。費用対効果はマイナスだ。なぜ、上層部がこのような阿呆ムーブをキメたのか。それは金融機関からの天下りメンバーのため、業界と現場を全く知らないからである。現場は知らないが、現場からリスペクトされたい、という気持ちが強い。そのため、現場介入をたびたび行っているがすべてしくじっている。たとえば昨年末ニュースになった宅配冷凍クリスマスケーキ事件は覚えているだろうか。当社は同様に冷凍食品を扱っている。上層部は急遽、現場視察を実施。5人仲良く車で冷凍倉庫に駆けつけ、倉庫を外から見て5人並んで腰に手を当て指差し呼称「ヨシ!」をキメる姿を現場スタッフに目撃されるという愚行を犯した。彼らは現場からよく思われたいのと同じくらい、現場からナメられたくないという気持ちが強い。そのため、現場で的外れなポイントを視察したり、素人丸出しの質問をするのを回避するのである。バカにされたらリスペクトされないからだ。こうして現場介入にしくじってきた彼らは、手っ取り早く現場からリスペクトされるには昇給だと安易に考えたのは想像にかたくない。

会社上層部は、「今回の臨時昇給を事前に知って、了承したことにしてくれ」と僕ら部長級に依頼してきた。後付け連帯責任。自らトップダウンを強調したのに今更なかったことにするつもり。僕は上層部に質問した。「もし今回の施策がうまくいっていたら、上層部の皆さんの成果になっていましたよね。そのとき、私は無関係とされますよね。いやむしろ部長クラスを排除してうまくいったと会社内で言いまわりますよね」。上層部は「まぁそうだね。そういうことになるね。なぜなら我々が決めたことだから」と実に都合の良いことをいうので「拒否します。私は事前に知らされていません」と答えた。当たり前である。会社上層部は僕からそういう反撃が来るとは思っていなかったらしく、口を大きく開け、首をかしげ、悲しそうな表情を浮かべた。馬鹿にしているのか、単なる馬鹿なのか、わからない。あるいは軽度の痴呆かもしれない。

上層部は、現場社員の給与を上げる「姿勢」を見せることが大事だと勘違いしていた。金額の問題ではないという見込み違いである。完全に間違っている。労働者は金額が全てだ。昇給だけで嬉しい、金額は関係ないという人間は存在しない。また、恩着せがましさも裏目に出た。経営状況や社会情勢を鑑みた感じ、社内で慎重な話し合いを経た感じ、それらを演出するための「ギリギリの経営判断」と言うワードを使ったのが最悪であった。つかセンスなさすぎ。やった感を醸し出すためのギリギリは、会社の経営状況がギリギリと捉えられた。まぁ普通そう受け取られるよね。

炎上はされに延焼中である。現場以外の本社や支社、各営業所の社員から「なぜ現場の社員だけなんだ」「差別だ」と言う声が上がっている。人間とは面白いもので、たとえ月2000円の昇給であっても、自分が対象外とされるとムカついてくるのである。2000円が20,000,000円のような気がしてくるのである。さらに、現場社員に限定したことによって現場で一緒に働いているパートからも不満がでている。パートスタッフも人材確保に苦労しているのに、時給アップはされなかったのである。上層部に確認したら「パートがやめても代わりはいるもの」と綾波レイのように言っていた。現場がわかっていない。

この問題の対策会議に営業部長の僕も強制参加させられている。昇給対象のパートを含む全社員への拡大、昇給額のさらなるアップ、パート時給のアップしかないように思われる。それでも会社上層部は「昇給だけでもありがたいのに、金額について文句を言うとは現場社員は贅沢だ」と自らの失敗を認めていないので、これからも同じような事は繰り返すだろう。社員は馬鹿じゃないので、同じ仕事であればより良い環境、より賢い上層部を求めて、同業他社に移っていくものは出てきても仕方ない。止められない。このように、行動力のある権力をもった無能がいちばん厄介なのである。

なお、僕の会社員生活において今回の人材流出策はワースト2位に留まっている。さらに輪をかけて酷いワースト1位がある。だから、まだ耐えられる。以前勤めていた会社上層部は、人材流出を阻止するため、あえて退職金制度を廃止した。退職金がなくなれば必死に今の状況にしがみついて働く、つまり転職を考えなくなるというワンダーな思考によるものであった。この政策は、効果てきめんであった。退職者が続出した。僕もこれでやめた。お金うんぬんではなかった。行動力のある無能と付き合うのは耐えがたいからである。このように、労働者が働きたいと思う職場環境には会社上層部も含まれるのである。(所要時間33分)