美輪明宏が89年の人生で大切にしてきた言葉たち。福を呼び込む「微笑みは開運の鍵」、悪口を言われても「柳に風」と受け流して【書評】
PR公開日:2024/12/20
毎日、多くのタスクや情報に溺れて忙しく、いろいろなストレスにさらされて、何かと心が荒みがちな今。大変さを環境や人のせいにしてしまうことも多いけれど、まずは、自分の心のあり方に目を向けてみようと思わせてくれるのが、『あなたの人生を導く 美輪ことば』(美輪明宏/中央公論新社)だ。
著者はご存じ、歌手、俳優、演出家として活躍する稀代の表現者・美輪明宏氏。自身が89年の人生で大切にしてきた言葉を、美しく、温かさも宿る直筆の書とともに紹介している。長崎での戦争体験や経済的苦境、また逆風を乗り越えて、豊かな芸術表現で私たちの心を揺らしてきた美輪さんが、自身の人生やこれまでの経験も交えながら、生きる知恵を伝えてくれる1冊だ。
本書には、「微笑みは開運の鍵」「思いやり」「地獄、極楽は胸三寸にあり」など、シンプルかつ印象的な言葉と、優しく紡がれる美輪さんの温かいメッセージが溢れている。特に印象的なのが、心の持ちように関する言葉だ。たとえば、人に悪口を言われたり意地悪をされたりして心がザワザワした時に思い出したい言葉が「柳に風」ということわざだ。美輪さんは、風に揺れる柳のように物事を受け流すことが大切だと伝えている。このことわざには、ムダに抵抗しない柳はかえって折れにくいという意味も込められているという。ギスギスした今の世の中では、どうしても人から嫌な感情を受け取ってしまうもの。しかしそれも優雅に受け流すことができれば、美輪さんのようなたおやかな強さを手に入れられそうだ。
また美輪さんは、「冷静沈着」という言葉とともに「苦しいときこそ、頭はつめたく、心はあたたかく」というアドバイスをくれる。美輪さんは、原爆症に苦しんだりホームレス生活を強いられたり、バッシングを受けたりと、浮き沈みの激しい人生を振り返りながら、マイナスの気に覆われた時期こそ、「頭はつめたく、心はあたたかく」と唱えて、冷静に目の前の問題を分析することが大事だと伝えている。
また、美輪さんの「感謝」に関する言葉も貴重だ。身の回りのものすべてに「有り難い」と思うことの大切さに加えて、美輪さんは自分に感謝することを勧めている。がんばっている自分自身に「おつかれさま」「ありがとう」という気持ちで、プレゼントやちょっとした贅沢をする時間を用意してみては? と提案。美輪さんのくれる言葉だけでなく、こうしたささやかなイベントからも心の栄養を得られそうだ。
「ルンルンルン」「ごきげんよう」といった、ほがらかに機嫌よくいるための言葉も胸に響く。また、本書の美輪さんの言葉はすべて優雅で明るく、言葉と心のあり方はつながっていると感じる。心が言葉に表れるのか、言葉が心を変えていくのか。その順番は人生の青二才にはまだわからないが、日々をポジティブな方向に向かわせるには、周囲の人など自分の力で変えるのが難しいことよりも、まずは自らの言葉から見直そうと思わせてくれる1冊だ。
文=川辺美希