先月からハーバード大法学部を中心に新な慰安婦騒動が広がっている。中心人物は同法学部の日本法の専門家であるラムゼイヤー教授。この教授は"tenure"と呼ばれる終身教授らしく今回の問題が理由で大学から罷免される事はまずないと思われる。
この教授に糾弾の火の手を挙げたのは同大学の法学部を中心とした韓国系学生グループと彼らの支持者となっている。この騒動はすでに韓国、日本に拡散している。米のNYT, CNNにも 取り上げられた。
問題の焦点はラムゼイヤー教授の名で "International Riview of Law and Economics" という学術誌に3月掲載の予定だった"Contracting Sex in Pacific War"である。
題名だけでも人騒がせだが、この内容がくせもの。なぜなら、十年ぐらい前にネットでバカの一つ覚えのようにリピートされたあのネトウヨ勢による反慰安婦路線の英語版としかいいようのないしろものだからだ。
ただしこのようにある程度アカデミックな視点を維持しながら学術英語で書かれた反慰安婦論文の登場は初めてなので、礼儀として真剣な議論に価するというのが私の印象だ。
私にはこの教授自らがこの論文を書いたとは信じられない。理由は発想があまりにネトウヨ過ぎるからだ。
強制連行の否定、
慰安婦被害者数20万人の否定、
慰安婦が被害者であることを否定、
慰安婦の存在自体の否定、
と否定を強調するので、安倍グループは国際的には"comfort women deniers" というニックネームまで頂戴しているわけだが、ラムゼイヤー教授の今回の論文の内容も上の図式を一歩も越えていない。
この論文に興味のある方には先に掲載されたラムゼイヤー教授の"Japan Foward" の寄稿を読むことをお勧めする。
https://japan-forward.com/recovering-the-truth-about-the-comfort-women/
こちらは問題となった論文の先駆けみたいなもので、主旨は"慰安婦=性奴隷"の完全否定である。理由は業者と慰安婦の間には売春契約があったからである。
これに対する海外の日本学者による最大の批判は、問題の"契約書"を出せ、というのもだが、ラムゼイヤー教授は、契約書はなかった、とあっさり認めている。ビルマで連合軍にとらえられた半島人慰安婦達には日本語が通じなかったし、ハングルも読めなかっただろう。こういう女性達に米人のように契約書をたてに条件交渉というのはちと教授の想像力のし過ぎという印象を受ける。米では給料は交渉次第で変わるのが一般的だ。
不思議なのはラムゼイヤー教授の論文中には"人身売買"、"性奴隷"などの国際人権法的定義及び"reference"が一つも見当たらないという事だ。それと当時の国内法、娼妓廃業、つまり売春婦廃業の自由を認める公娼法、及び旧民法の醜業規定条項、などの言及も一切無しだ。契約の合法性を主張するならそれらが必要だが全く無い。
契約法に関しても当事者が合意すれば合法というような商法専門家らしからぬ能天気な規定で、すでにこれを読んで売春契約が成立している、とメディアに書く韓国系コメンテーターも現れている。
しかし日本の旧民法では売春の年季奉公で借金を返す法的義務はない。ネットに掲載されていた判例の一つは廃業を希望する廓芸者に廓業者が借金をこれまで通り廓で年季奉公して返せという訴えであったが、判事は業者の訴えを旧民法醜業規則により却下している。この条項は現民法でも同じである。
日本国内の報道では韓国の関係者を中心に論文掲載中止を要求していことが報道されているが、問題の論文はすでにネット上で公開されている。
http://chwe.net/ramseyer/ramseyer.pdf
この論文は数か月前からハーバード大法学部内で$35で公開されていたようだ。また去年2019に公開されたこの論文のディスカッション版がPDFで無料で公開されていた。これで反応を探っていたようだ。こちらも私もざっと目を通した。今回本体を読んでみるとディスカッション版と内容は同じだった。
NYタイムズの記事によるとこの論文公開に関してラムゼイヤー側はかなり時間をかけて慎重に準備していたとなっていた。