4月にはいってからこっち、ウクライナのことで頭がいっぱいになっている。
困ったことだ。
で、日常の些事について、落ち着いて考えることができなくなっている。
インターネット内をウロついていても、テレビのニュースを渡り歩いていても、どうかするとウクライナのことばかり考えている。
といって、このたびの戦争について何かを書く気持ちになるのかというと、それはしたくない。むしろ、書くべきではないと考えている。
自分なりに思うところはあるのだが、あえてその感情なり見解を書き起こそうとは思わない。理由は、自分の頭の中を行ったり来たりしている考えが、果たして公表に値するものなのか、自信が持てないからだ。
じっさい、このひと月ほどの間、ウクライナ関連について、無価値な情報を垂れ流す論客が大量発生している。無価値なだけならともかく、彼らは、明らかに有害な感情を煽る粗悪な情報を発信している。
戦争が始まると、一部の人々が興奮状態に陥ることは、あらかじめ想定できたことで、そのこと自体は、特に驚くにはあたらない。
しかしながら、戦争と興奮の組み合わせは、大変によろしくない。私はそう思っている。
戦争のニュースに興奮する気持ちは、任侠モノの映画を見て、やや凶暴な気持ちで映画館を出る時の心境に似ていると言えば似ている。
スポーツの試合や娯楽映画を見て興奮するのは、必ずしも悪いことではない。しかし、生身の人間の命のやりとりである戦争を眺めてエキサイトすることは、無益であるのみならず、有害だ。
というのも、戦争が拡大する理由のひとつは、戦時報道を眺める人々が、平静さを失い、興奮してしまうことの中に求められるからだ。
戦争は、それを眺める人々の中に、あらかじめ内在していてふだんは封じ込められている、さまざまな感情を呼び覚ます。
それは怒りかもしれないし、差別感情であるかもしれない。闇雲な敵意や無目的な処罰感情であるのかもしれない。いずれにせよ、組織的かつ計画的な殺人である戦争は、そうしたネガティブな感情を増幅してしまう。
「オレが司令官だったら、こういう作戦で戦い、こんな戦争指導をする」
と、兵隊や非戦闘員をチェスの駒みたいに思い描きつつ、作戦行動を自分に引き寄せて考える向きもあるだろうし
「自分がウクライナの大統領だったら国連でこんな演説をするだろう」
てな調子の妄想にふけって自己陶酔する男もいるはずだ。
もっとも、
「なんということだ。幼い子供たちが地下室の暗がりで怯えている」
「ああ、ミサイルが都市を破壊している」
と、避難民や犠牲者の身になって、ひたすらに心を痛めている人々も少なくない。というよりも、大多数の一般人は、心を痛めているはずだ。
とはいえ、どんな角度からどんなふうに見ているのであれ、戦争を眺める時、われわれは、多かれ少なかれ、興奮してしまっている。
興奮することそのものがいけないと言っているのではない。
おそろしいのは、戦場の思考を常識化してしまうことだ。
なんというのか、平和な世界で暮らす人々の尋常な思考や感情を
「お花畑」
と呼んで一蹴する人々の頭の中で、すでに戦争は始まっているのである。
今回は、映画の話をしたい。
あらかじめお断りしておくが、私は映画には詳しくない。
というよりも、映画は、若い頃から一貫して、私の苦手分野だった。この傾向はいまでも変わらない。
無知。
という言い方をしてもよいかと思う。それほど映画のことについて、私は、ほとんど何も知らない。
見た映画の本数が少ないというだけの話ではない。
私は、そもそも映画を見ることで感動した経験をあまり持っていない。
だから、昔から、自腹を切って、自分の時間をツブして、映画館にわが身を運ぶことに、面倒くささを感じていた。
もしかして、私は、鈍いのかもしれない。
というよりもリアルタイムで流れる映像的なコンテンツに、感情移入することが苦手なのだろう。
文章は、自分のペースで読みすすめることができる。途中で投げ出すこともできるし、前に戻って読み返すこともできる。
しかし、映像作品の場合、制作側の指定した時間の流れに、観客の側が従わなければならない。私は、たぶんこれが苦手なのだと思う。
単にせっかちなのかもしれないが、作り手が想定した時間に身をまかせてじっくり観賞することができないのですね。途中で置いていかれたり、逆にくどい描写に辟易したりして、自分のペースで楽しむことができないのだ。
今回は、だから、批評をしようと考えているのではない。
映画界全般に対して、私が前々から抱いている感情をこの際明らかにしてみようという、それだけの話だ。
あるいは、私の映画観に触れて、不快に思う人が出てくるかもしれない。
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