私たちが日々楽しんでいるコーヒー。このコーヒーが、見えないところで私たちの健康を守ってくれているという驚きのエビデンスが続々と報告されている。その健康効果の核となるのが抗酸化成分のポリフェノールだ。総死亡リスクや脳卒中リスクを下げ、糖尿病を抑えるといったコーヒー研究の最新情報と、作用のメカニズムについて、ネスレ日本ウエルネスコミュニケーション室室長の福島洋一さんに聞いた。
写真はイメージ=PIXTA
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コーヒーは最大のポリフェノール摂取源

 気分をしゃきっとさせたいときや食後のリラックスタイムにコーヒーの味と香りが欠かせない、というコーヒー愛飲者は多いだろう。コーヒーに含まれる成分の中で、大きな役割を果たしているのがコーヒーポリフェノールカフェインだ。カフェインはご存じのように覚醒作用や脂肪燃焼効果などが期待できる成分。そして、ポリフェノールは、活性酸素を消去する抗酸化作用を発揮する。中でも今回は、ポリフェノールに注目したい。

 「コーヒーは、身近な飲料の中ではダントツにポリフェノールを多く含む飲料です。さらに、私たちが行った調査では、日本人はポリフェノールの約半分をコーヒーからとっていることが分かりました(下図)」と、コーヒーと健康について長年、機能性研究やリサーチを行ってきたネスレ日本ウエルネスコミュニケーション室室長の福島洋一さん。

 福島さんによると、世界的にもコーヒーは最大のポリフェノール摂取源であるという。「食事全体からのポリフェノール摂取の中でコーヒーが占める割合を見ると、フランスやポーランド、メキシコは日本と同様に半分程度をコーヒーから。ブラジル、アメリカ、カナダ、フィンランドはさらに多く、コーヒーが7割ほどを占めています。例外も若干あり、スペインは果物や野菜、オリーブオイルから、イギリスは紅茶からのポリフェノール摂取が多く、コーヒーからは2割程度という報告があります」(福島さん)

コーヒーはポリフェノールを豊富に含む
コーヒーはポリフェノールを豊富に含む
主な食品、飲料に含まれるポリフェノール含有量を調べると、コーヒーは赤ワインに次いで100gあたりのポリフェノール含有量が多い(左)。日本人の飲料からの総ポリフェノール消費量を解明するために、東京と大阪で10~59歳の男女8768人を対象に1週間で摂取した全てのノンアルコール飲料の量と種類を記録した。飲料からの総ポリフェノール消費量が最も多かったのはコーヒーで50%を占めた(右)。緑茶は34%、紅茶、ウーロン茶、麦茶などは10%未満だった。別の調査で、ポリフェノール摂取の約8割が飲料由来であることが分かっている。(データ:J Agric Food Chem. 2009 Feb 25;57(4):1253より作図)
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 「コーヒーと緑茶は私たちのポリフェノール摂取源の2トップとなっています。さらに言うと、コーヒーは緑茶の2倍のポリフェノールを含むため、同じ飲むにしても効率よくポリフェノールをとることができる飲料と言えます。ただ、私たちが調査した結果、ポリフェノール摂取量は非常に個人差が大きいことも判明しました。この差が一生涯にわたって続くことによって疾患リスクとの関わりが生まれてくるのでは、と考えています」(福島さん)

 実際に、ポリフェノール摂取量と健康との結びつきを示す研究が報告されている。

 35歳以上、約3万人を対象に1992年から行われている「高山スタディ」において、「総ポリフェノール摂取量が多くなるほど総死亡リスクや脳卒中リスクが低くなる」という結果が2019年に報告された(下図)。日本における食事中のポリフェノール摂取量とその影響を示した初めての興味深い研究だ。

 ちなみにこの報告でポリフェノール摂取量が最も多い群の1日あたりのポリフェノール摂取量は、952mg以上。コーヒーのみで換算すると、1日あたり3杯相当と、現実的な量だ。

 なお、同じ高山スタディでは、コーヒーそのものについても調査が行われている。コーヒー1日1杯以上の摂取が総死亡、心血管疾患、感染症、消化器疾患による死亡と逆相関することが2020年に発表された(*1)。

 「ポリフェノールの豊富なコーヒーが日本人の死亡リスクの低下と関連しているということはほぼ確実、と言える程度にエビデンスが蓄積されています」(福島さん)

ポリフェノール摂取量が多いほど総死亡、心血管疾患、脳卒中リスクが下がる
ポリフェノール摂取量が多いほど総死亡、心血管疾患、脳卒中リスクが下がる
岐阜県高山市の2万9079人の住民を対象に行った平均14.1年の追跡調査。追跡期間中に5339人が死亡した。食事調査から食事中のポリフェノール摂取量を求め、4群(Q1~Q4)に分けたところ、ポリフェノール摂取量が最も少ない群(Q1:502mg以下)と比較して、最も多い群(Q4:952mg以上)は、総死亡、心血管疾患リスクが有意に低下、なかでも脳卒中による死亡リスクとの強い関連性が示された。その他、消化器疾患による死亡リスクにも逆の関連が見られた。(データ:Eur J Nutr. 2020; 59(3): 1263-1271.より作図)*p<0.05
*1 Public Health Nutr. 2020 Jan;23(1):189-191.

コーヒー摂取は糖尿病リスクを下げる強力な因子となる

 もう一つ、注目すべきは、コーヒー摂取と糖尿病の関係だ。

 「近年、数多くの研究をさらに一つにまとめて解析する研究手法(メタ解析)が広がっています。コーヒーと糖尿病に関して、2つの興味深い研究が報告されています」と福島さん。

 その一つが、「コーヒーは2型糖尿病のリスクを下げる強力な因子となる」というもの(下図)。コーヒーは、糖尿病予防のために推奨されている「運動」や「全粒穀物の摂取」と同じレベルで、「リスクを下げる因子」となっている。「当然ながら、糖尿病リスクを上げていくのは肥満やメタボリック症候群などであると示されています。一方で、コーヒーはリスクを下げる因子のトップ3に入っているのです」(福島さん)

コーヒーは運動並みに糖尿病リスクの低下と関連
コーヒーは運動並みに糖尿病リスクの低下と関連
2型糖尿病の危険因子に関する86の研究をまとめて、幅広く解析。その結果、糖尿病リスクを上げる因子は肥満、メタボリック症候群などだったが、反対にリスクを下げる因子としてコーヒーは運動や全粒穀物と同じレベルで寄与している可能性がある。(データ:PLoS One. 2018 Mar 20;13(3):e0194127.より作図)

 では、コーヒーがなぜ糖尿病リスクを下げるのだろう。福島さんによると、現在、そのメカニズムとして以下の可能性が挙げられているという。

糖を取り込む際に働くインスリンの効きをよくする

小腸において糖の過剰な取り込みを阻害し、血糖値の上昇を抑える

高血糖時に起こる体内の炎症を抑える

 「コーヒーを継続的にとることで、このような複数の予防メカニズムが働いている可能性があります。おそらく、コーヒーポリフェノールの抗酸化、抗炎症作用が効いているのではないでしょうか」(福島さん)

 いかがだっただろうか。継続的にとることでメリットがあるのであれば、「コーヒーを口にする機会を増やしてもいいかも」と思った人も多かったのではないだろうか。次回は、コーヒーポリフェノールの血管への影響など、健康効果についてさらに聞いていく。

(グラフ制作:増田真一)

福島洋一(ふくしま よういち)さん
ネスレ日本ウエルネスコミュニケーション室室長
福島洋一(ふくしま よういち)さん 東京農工大学農学部農芸化学科卒業、同大学大学院修了後、ネスレ日本入社。農学博士。ネスレ中央研究所(ローザンヌ)、ネスレリサーチ東京R&Dプロジェクトマネージャーを経て2010年より現職。主にコーヒーや抹茶の機能性研究に取り組む。人間総合科学大学非常勤講師。

[日経Gooday(グッデイ)2022年3月3日掲載]情報は掲載時点のものです。

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