生活習慣病を解消し、一生ものの体をつくるために知っておきたいことを大阪大学大学院特任准教授の野口緑氏に解説してもらう本連載。今回のテーマは、「労災」を防ぐために職場のリーダーが知っておきたいこと。労働者が心筋梗塞や脳卒中を起こし、労災認定されるケースは年間約200件起きている。労災を減らすため職場のリーダーにできることは何か、ヒントを教えていただこう。

 こんにちは。大阪大学大学院で生活習慣病予防の研究をしている野口緑です。最近、ますます「健康経営」という考え方が注目されるようになっていますね。そこで今回は健康経営を進めるうえで、部長や課長といった職場単位のリーダーのみなさんに知っておいてほしいことをお話ししたいと思います。

 そもそも健康経営とは、社員の1人1人が健康を維持・増進し、仕事に全力投球できるようになることで生産性向上を目指す経営手法のことを言います。その個々の社員の健康維持や、職場の生産性向上のために、各職場のリーダーが部下の健康状態を気にとめることはとても大切だと思っています。

やることをやっていても「労災」認定されることも

 では具体的に何をすればいいか。それを説明する前に、まず、ご存じでない人も多い「労災」(労働災害)の話から始めましょう。

 労災とは、労働者が業務に起因して被った負傷、病気、死亡などの災害を指します。一般に労災というと、作業現場で起こるような事故やケガのイメージがありますが、そのような負傷だけとは限りません。狭心症、心筋梗塞、脳卒中といった脳・心臓疾患や、長時間労働やパワハラなどによる精神障害も労災と判断される場合があります。

 ここでは脳・心臓疾患について話しますが、どんな場合に労災認定されるのでしょうか。答えは、「仕事が特に過重であったために(脳・心臓疾患発症のもととなる動脈硬化などの)血管障害が自然経過を超えて著しく増悪し、その結果、脳・心臓疾患を発症した場合」。具体的には、以下のいずれかの認定要件を満たす場合に労災認定されます。

脳・心臓疾患の労災の認定基準
脳・心臓疾患の労災の認定基準
上記のいずれかの「業務による明らかな過重負荷」により発症した脳・心臓疾患は、業務上の疾病として取り扱われる。(出典:厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定」)

 「長期間の過重業務」とは、発症前1カ月間に約100時間、または発症前2~6カ月間にわたって、1カ月当たり約80時間を超える時間外労働が認められる場合など。「短期間の過重業務」とは、発症前の約1週間継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合などです。上記の時間に至らなくても、これに近い時間外労働を行った場合は、業務と病気の発症との関係が深いと見なされますし、心理的負荷、身体的負荷など「労働時間以外の負荷要因」も考慮されます。

 「異常な出来事」の中には、発症直前から前日における極度の緊張、興奮、恐怖、驚がくなど強い精神的負荷を引き起こす事態や、急激で著しい身体的負荷を強いられる事態などを指します。

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