トランプ次期米大統領は11月25日、2025年1月の就任後に中国とメキシコ、カナダからの輸入品に追加関税を課すと正式表明した。関税を武器にディール(取引)を仕掛け、外交と貿易を有利に進めるトランプ氏の十八番である。

 エヌビディアもまた、この強引な駆け引きに翻弄されることになりそうだ。同社は自社工場を持たず、製造を台湾積体電路製造(TSMC)に委託。チップを積んだサーバーの組み立ては台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業などが担う。米中対立による地政学的な緊張の高まりは、サプライチェーン(供給網)上のリスクを意味する。

 関税の先行きも不透明だ。トランプ氏は当選後に、台湾からの輸入関税に言及していない。ただ、選挙期間中に「台湾が米国の半導体ビジネスを盗んだ」とコメントしており、台湾との何らかのディールを考えている可能性がある。

関税には抜け道があるが…

 バイデン政権が22年に成立させた、半導体の米国生産を支援する「CHIPS・科学法」の見直しも予想される。トランプ氏はポッドキャスト番組でCHIPS法を厳しく非難。補助金ではなく関税によって米国内での半導体工場建設を促すべきだと主張した。輸入品に高い関税をかければ国産品の需要が高まり、その需要で米国内の生産施設が増えるという論理だ。

 こうした主張に対し、米半導体工業会(SIA)は米国内の工場建設はコストアップにつながり、「効率的なサプライチェーンを破壊する」と反対を表明してきた。

 一方で、関税の効果を疑問視する声もある。「関税には抜け道がある」。半導体の歴史に詳しいアナリスト、大山聡氏はこう言う。例えば1980年代の日米貿易摩擦では、米国が日本メーカーのパソコンに100%の関税をかけた。すると、ある日本メーカーはCPU(中央演算処理装置)だけを組み込んでいない状態のパソコンを米国内の工場に輸送し、CPUの搭載だけを済ませて「米国製」として販売するという抜け道を使っていたという。

 「こうした抜け道の存在を含め、トランプ政権内では様々な議論があるはずだ。一律で関税をかけるようなやり方には抵抗もあるのではないか」と大山氏は見る。

 エヌビディアのジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)は11月の日系メディアの合同インタビューでトランプ政権誕生の影響を問われ、「分からない。社会のために技術を発展させるのが我々の使命だ」と述べるにとどめた。

 一方で、サプライチェーンの冗長性についても言及した。「TSMCは優れた特別な企業だ。ただ全ての企業にとって、冗長性を備えるためには多様性が必要だ」

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