素敵な活字中毒者
「素敵な活字中毒者」(椎名誠選)は、異常なほどの本(活字)好きについて書かれた21人の作家によるアンソロジー。そのうち小説は「本盗人」(野呂邦暢)、「万引き千摺り百十番」(野坂昭如)、「悪魔祈祷書」(夢野久作)、「もだえ苦しむ活字中毒者地獄の味噌蔵」(椎名誠)の四編。興味深く読めたのは、鶴見俊輔の「大衆小説に関する思い出」。大衆小説をどう捉えるか(「……理想的人間像が大きくでんとすえられ、いかに生くべきかという哲学的問題を、行動的かつ川的に扱うのだ。だから大衆小説は、日本の大衆の生活を正しく反映しているわけではないけれど、日本の大衆の持つ哲学思想とはかなり強く結びついている」)が、わかりやすく分析してあって、なるほど、と頷けた。椎名誠の「もだえ苦しむ活字中毒者……」はリアルタイムで読んだのだが、例によってほとんど忘れていた。ただ、これを読んで、目黒孝二、沢野ひとしの著作を読んでみたことだけは覚えている。その後、沢野ひとしは一冊だけで読むのを止めたが、目黒孝二は、「藤代三郎」名義の競馬エッセイ、「北上次郎」名義の書評を愛読するようになり、今日まで続いている。
ところで、椎名誠さんの「もだえ苦しむ活字中毒者の味噌蔵」で、「へたうまイラスト」を描く沢野ひとしさんの本の読み方をこんな風に表現している。
<こやつの読み方はあきらかな「流し読み」であり、ひどいときは文庫本を一冊、三十分ぐらいで読むことがある。そうなると、もう完全にストーリーの展開だけで勝負しているわけであるから、言ってみればあの悪名高い「小説ダイジェスト」のような男なのである。しかしこれだけいっぺんにまとめてドカッと一人の作家のストーリーだけを読んでしまうと、もうどの話の主人公がどういう性格で、どういうアクションがあって誰が死んだか、なんていうのはまるで区別がつかず、全体に何となく沢野ひとしの頭の中には、大藪晴彦の描いた世界がごっちゃに絡み合ってとにかくひとつ存在しており、それは前回の出張の時にやっぱり集中的に読んだ山本周五郎の世界とはちょっと違う名、ということがなんとなくわかる……という程度のモンダイになっているのである>
まさに私の読み方と同じだ。これではちょっとマズいかな、と思ってはいるので、こうして読後の寸評らしきものを書いているのだけれど。