フェイスブレーカー
「フェイスブレイカー」(鳴海章)は、人間の顔を瞬時に記憶する特異な能力を持った刑事を主人公にした長編小説。こういう警察の公安部を舞台にした物語は、たいてい日本をとりまく相手国の思惑や陰謀が背後に隠されているのだが、私にはその面白さというものがよく分からない。「宏大なスケール」でなく、小さな事件の裏に秘められた人間の葛藤を描くだけでは、なかなか読者のニースに応えきれないということなのかもしれないが。
<人間の顔を瞬時に記憶する異能刑事・狩野真盾。その特殊能力を見出した公安捜査官・吉田は、東京・六本木で発生した奇怪な殺人事件に狩野を起用する。謎を解く鍵はソウルにある。二人は韓国に飛ぶが、そこには驚愕の真相が待ち受けていた>
「驚愕の真相」でなく「ありそうな真相」だったのが残念だ。鳴海さんには、特殊な能力を持っている主人公より、組織にはまりきらないはみ出し者の主人公を描いた作品が少なからずある。氏のデビュー作「ナイト・ダンサー」(1991年江戸川乱歩賞受賞作。同時受賞したのが真保裕一さんの「連鎖」だとは知らなかった。奇しくも私の好きな作家二人だったとは!)を始めとする「航空サスペンス」や上述のような「刑事小説」を多く書いていて、そちらの方の読者の方が多いのだろうが、私には、ばんえい競馬を扱った「輓馬」、ボクサーの再起と愛を描いた「痩蛙」、行き場のない男女の愛を描いた「風花」、誘拐を題材にした「鬼灯」、70年代末の青春を描いた「夏日」、などの、社会からはみ出した男女の生き様と愛憎を描いた作品が好きだ。もちろん「航空サスペンス」も「刑事小説」も好きではあるのだが。
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