子規のココア 漱石のカステラ
「子規のココア、漱石のカステラ」(坪内稔典)は、エッセイ集だが一つ一つが短くて、眠る前に布団の中で読むに丁度良い。ちょっと面白かったので、子規と漱石のペンネームの由来を紹介すると――、
<正岡子規の本名は正岡常規だが、子規と名乗ったのは明治二十二年、喀血した二十二歳の時だった。血を吐いて肺結核と診断された後、
卯の花をめがてきたか時鳥
卯の花の散るまで鳴くか子規
というような俳句を作った。血を吐いたのは五月のはじめ、ちょうど初夏の風物の卯の花やホトトギスの時期であったが、卯の花に卯年生まれの自分を、ホトトギスには結核を重ねた句だ。こんな句を作った彼は、自分の命をあと十年と考え、そして「子規」と名乗る。
結核(子規)というマイナスを自ら引き受けて生きる覚悟がこの名乗りにこめられていた。
正岡子規が子規と名乗った同じ年の同じ月、夏目金之助も「漱石」と名乗る。
昔、中国の春秋時代に晋という国があり、そこに孫楚という人がいた。この人が「石に枕し流れに漱ぐ」と言おうとして「漱石枕流」、すなわち「石に漱ぎ流れに枕す」と言い誤った。石で口を漱いだりしたら歯が折れるが、孫楚は間違いを認めなかった。それでこの話は負け惜しみの強いことをさすエピソードになった。「蒙求」という本に出ている故事だが、金之助は自分の性格などに負け惜しみの強い面があることを自覚し、この故事にちなんで漱石と名乗ったのである。>
お二人とも自分のことを客観的にほぼ正確に観ることができた人たちなのだと思う。私は根っからの怠け者だから「怠」の字を横に寝かせて「台心」とでも名乗ろうかと思うのだが如何なものだろうか。
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