偏読老人の読書ノート

すぐ忘れるので、忘れても良いようにメモ代わりのブログです。

砂漠の船

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 「砂漠の船」(篠田節子)の読後タイトルの意味を考える。無用のものの謂いなのか、あるいはあり得ないものの謂いなのか。自分の家族が繁栄を引き換えに失った「家族の絆」を自分たちだけは失うまいと出世をあきらめ地域社員として日々を送る夫と、夫がこだわる絆ゆえに未来をあきらめた妻、そしてその両親を醒めた眼で見る娘。家族の絆など無駄なものか、それとも最初からそんなものなど望む方が悪いのか。家族の在り方を描いた家族小説だ。

 <母親は出稼ぎから帰ってきて自殺した。子供の頃に大切な家族を失った幹郎は今、東京郊外で地域社会に根ざした家庭を築こうと固く心に誓っている。だが、そんな幹郎の想いをよそに、妻も娘もそれぞれの世界を築いてゆき、家庭に亀裂が生じはじめる。経済発展に向けてひた走ってきた日本社会の歪みを、ある一家の崩壊を通して描ききった現代家族小説の白眉。>

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