「スペンサー」に魅せられて。
スペンサーシリーズを最初に読んだのが「初秋」(ロバート・B・パーカー)。私立探偵スペンサーシリーズ第7作。ここでのスペンサーは、こう紹介される。
<37歳、183センチ89キロ。元地方検事局の特捜班に勤務。スタンドプレーのやりすぎで退職。本人は「非順応型の行動」と弁解。食通を自認するがチーズバーガーをひそかに好む。拳銃のホルスターの色が苦心のスタイルと色調が合わないと心配するほどのおしゃれ。もっとも第三者は「ヘルスクラブの用心棒」と評する。しばしば詩を口ずさむ。どんな苦境に立たされても無駄口、軽口を叩くのが癖。ジョギングとウエイトリフティングのトレーニングで身体を鍛えている。片手腕立て伏せが得意。(元ボクサーでもあった)>
本作は、両親の愛情に恵まれない十五歳の少年を自立させるべく共に暮らすスペンサーに、その少年が「生き方を教わり」成長する姿を描く父と子の物語。チャンドラーを再読して、ハードボイルド物も大したことないと思ったが、いやいやこれは面白かった。そして我慢できずに「晩秋」も一気によんでしまった。こちらは、「初秋」から十年後、成長した少年が母親の行方を探してくれとスペンサーに依頼するところから始まる。これまた、家族とは何かを問う、家族の物語。スペンサーの過去が語られる。それにしてもこの作者、登場人物の服装の描写がきめ細やかだ。執拗と言って良いかもしれない。まるで服装がその人を表しているかのようだ。
「約束の地」(パーカー)は、家出した妻を探す依頼を受けたスペンサーの活躍。夫婦、男と女、あるいは人と人との関わり全般に関する哲学的な会話が魅力的。
<ハードボイルドな主人公は、騎士道という西欧の伝統を受け継いでいる人間である。彼は誰にも屈しない―― 一匹狼である。危険を冒すのは、独語的な意思表示である。彼は、独自の道徳律に基づいて行動し、他のいかなる通念も、その道徳律に照らして理解し、判断する。
彼は、いつも、自己の道徳律をもたない人間のために、自分の心情に基づいて行動する。彼はこの社会における最後の紳士であり、紳士であり続けるためには、闘わなければならない場合もしばしばある。時には人を殺さなければならないこともある。(著者)>