偏読老人の読書ノート

すぐ忘れるので、忘れても良いようにメモ代わりのブログです。

「BOSS」と「独走」

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 「BOSS」 堂場瞬一

メジャーリーグでしばらく優勝から遠ざかっているメッツとブレーブス。両球団を任されたGM(最近日本では落合氏や原氏がこのGMに就任しているが、どうやら現場を統括する責任者という役職で、人事権を持っているオーナーに次ぐ権力者らしい)の一シーズンの戦いぶりを描いているのだが、70歳になるブレーブスのお喋りで少し演出過剰気味のGMのキャラクターが秀逸。陽気でタフなアメリカならいそうな人物でリアリティがある。好きだなあ、こういうキャラ。それに対するメッツのGMは草野球程度しか経験のない日本人だ。出塁率を重視し派手な戦いでなくこつこつと点をとっていくスモールベースボールをめざし、最優先するのはデータだ。それだけなら「イヤな男」になるのだが、堂場さんはそうなるのを微妙にコントロールして避けている。読む方としては、どちらのチームにも優勝させてやりたいと思わせるのだ。上手いんだよなあここら辺の描き方が。そして、シーズン最終戦は優勝がかかった一戦。勝つのはメッツか、それともブレーブスか。この決戦の幕切れがとてもお洒落だ。

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「独走」 堂場瞬一

 オリンピックのメダル獲得を目標に創設されたスポーツ省。そこで強化選手に選ばれた陸上長距離競争で日本記録を更新し続ける選手の「何のために走るのか」という苦悩と飛翔の姿を描きながら、組織(国家)と人との関係を問う物語でもある。堂場さんはたいてい個人の側に比重をかける人間を描く作家さんなので目新しさはないが、対照的な人物を配置することによってアスリートの心の内部の葛藤を描くことに成功している。

<国家に管理・育成されるアスリートの苦悩。オリンピック柔道金メダルを花道に引退した沢居弘人は、スポーツ省から特別強化指定選手「SA」の高校生・仲島雄平のサポートを命じられる。陸上長距離で日本記録を更新する反面、メンタルが弱い仲島の意識改革が狙いだった。次回五輪での金メダル倍増計画を国策に掲げ、アスリートを管理育成する体制に違和感を覚えながら、仲島は練習に励むが…。> 


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