ニッポンの狩猟期
「ニッポンの狩猟期」(盛田隆二)は、当初「ニッポンの狩猟期2008」という題名で単行本化(1997年5月刊行)されたが、文庫化にあたって改題(「2008」をとって)し、加筆、修正したものだと巻末にあるように、10年後を描いた近未来小説だ。主人公はストリート・チルドレンと呼ばれる帰る場所(家族)のない子供たち。描かれるのはドラッグ、暴力、売春が日常化された町の中の出来事だ。小さな子供たちが理由もなく殺される。女の子が、男の子が大人のセックスの餌食になる。逃げ場のない日常のなかで子供たちはグループを形成して大人に対抗しようとするが結局は…。
文庫版のあとがきで盛田さんはこの小説を書いた動機のひとつを次のように書いている。
<貧困を背景とする途上国の児童売春と、ニッポンの援助交際は本質的に違うという意見があるが、ぼくはそう思わない。(中略)
髪の毛をアジア人種と白人種の混血のように薄い褐色に脱色し、制服のスカートを異様に短く吊り上げ、真冬でも人工的に肌を灼き、痩せるためには覚醒剤にも手を伸ばす。巧みな化粧で日本人の特徴を消す少女たちは、なぜそれほどまでにコロニアル化された東南アジアを思わせる顔を作ることに熱心なのか。その深層を知りたかった>
売春によって体がぼろぼろになり、医師からは「50歳の肉体だ」と宣告され、もはやドラッグの力を借りても痛みを和らげることができなくなった、13歳の少女リーと、そのリーを姉と慕う、女の子の格好をすることで巧みに逃げ回ることに成功した9歳のカズが、それでも自分たちの生活していたその町に戻ろうとするラストには胸が熱くなる。そういう二人の光景を淡々と描いているから尚更に。
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