偏読老人の読書ノート

すぐ忘れるので、忘れても良いようにメモ代わりのブログです。

盛田隆二ばかり読んで

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「幸福日和」(盛田隆二)

不倫の男女の物語だが悪人が一人も登場しないのが良い。男から描いた理想の不倫物語という面がないではないが、読後は幸せな気分になれる。「日和」というより「気分」と言い換えた方がぴったりする。それにしても、盛田さん、こういう小説も書けるなんて。やはり油断できない作家さんだ。

<園田花織は出版社で編集総務をしている25歳。ファッション誌の創刊が迫り、残業は増える一方だったが、大手メーカーに勤める営業マンとの結婚も決まり、充実した幸せな毎日を送っていた。だが、挙式の直前、相手が女性問題を抱えていることを知る。悲しみにうちひしがれる花織を新雑誌の編集長・白石は、やさしく包み込んでくれるのだった。妻子ある男との恋に落ちた花織の心情を通して、「女の幸福」とは何かを追求した、万感胸に迫る恋愛傑作長編>

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「身も心も」

後ろを見たら「死様」をテーマにした競作シリーズの一冊だった。同じシリーズに「ダンスホール」(佐藤正午)があった。佐藤さんの作品の中ではそれほど面白くなかった記憶があるが、本書もそれほど面白さは感じなかった。ただ、老いがすぐそばにある私としては、「忘れていく」ことの恐怖が実感として湧かないからだろう。老人の恋愛(「純愛」と言うべきかもしれない)を扱っての小説は、う~ん、どうなんだろう、人それぞれだからなあ、こういうのって。

<妻に先立たれ、毎日を無気力に過ごす礼二郎。彼を変えたのは、絵画同好会での幸子との出会いだった。やがて二人は恋に落ち、喜びも悲しみも分かち合いながら愛を育む。たとえ周囲の人間に後ろ指をさされようとも。だが、礼二郎は不意の病に蝕まれて……。ときめきを忘れかけていた男女が、限られた時の中で紡ぐ切実な恋愛模様を、まばゆいほどに美しく描く感動作。>

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「散る。アウト」

冒険小説の部類に入るのだろうが、謎解きもあってエンタメらしい小説。登場人物それぞれがそれぞれらしくて面白かった。どこかで見た(読んだ)記憶がある人物設定もそれほど気にならないのは作者の登場人物に対する愛があるからだろう。可もなく不可もなくというのはこんな小説を言うのかもしれない。

<ふとした気の迷いから先物取引に手を出し、家族も仕事も無くして木崎耕平。居場所もなくした耕平の目の前に現れた男・尾形は、彼に偽装結婚を持ちかける。話に乗った耕平は、モンゴルへ。偽装結婚の相手・ダワのひたむきな姿に次第に自分の中の何かを取り戻していく耕平だったが、マフィアの抗争に巻き込まれ、ダワたちと共に極限の逃避行に身を置くことになる。>

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 「金曜日にきみは行かない」(盛田隆二)。こういう(人が人に憑依する)物語はどうも私には苦手で、半分近く読んであとは斜め読みしてしまった。

<溶解した境界上の冒険、終わりのない夢の物語。天才ロックシンガー白石ありすの記事を依頼された音楽ライターの〈きみ〉。だが、インタビューは散々だった。ありすが全く口を開こうとしなかったからだ。それでも〈きみ〉は十個の質問に対する、ありすの十通りの沈黙を書き分け、編集部にファックスする。そこに、ありすから「助けて」と電話が入る。東京湾岸のスタジオを抜け出し、紅葉の足尾へ、新宿歌舞伎町の街路へ、ふたりの逃避行が始まる。境界線を失踪する、ありすと有子。時間の迷路を旅する、きみとぼく。〈分身〉をめぐるネバーエンディング・ストーリー。>

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