偏読老人の読書ノート

すぐ忘れるので、忘れても良いようにメモ代わりのブログです。

オリンピックの身代金

 オリンピックの身代金(奥田英朗)

<青春とは何であったか。ただ時間をもてあましてウロウロキョロキョロすることであった落ち込んだり、向ッ気強く生意気になったり、何も知りもしないのに断定的に世の中切り下ろしたり、わかりもしないのに偉そうに文庫本読みふけって暗い顔して深刻ぶったりする。その深刻さも箸が転がっただけでたちまち軽薄なキャーキャー声にひっくり返ったりするだけであった。その上不安であった。青春とは病気である。(佐野洋子「あれも嫌い これも好き」より)>

 確かに病気かもしれないが、青春の熱狂や根拠のない執着を思い出してみると、それがあったからこそ、今の自分があるのだということを忘れてはならないと思う。本書はミステリー長編小説。 

<小生、東京オリンピックのカイサイをボウガイします―― 兄の死を契機に、社会の底辺というべき過酷な労働現場を知った東大生・島崎国男。彼にとって、五輪開催に沸く東京は、富と繁栄を独占する諸悪の根源でしかなかった。爆破テロをほのめかし、国家に挑んだ青年の行き着く先は? 吉川英治文学賞受賞作>

(「ウィキペディア」)主人公の東京大学院生・島崎国男は、深刻な地域格差や貧富の差に疑問と憤りを抱き、オリンピック妨害という大それた犯行を計画するが、島崎の中に強い信念があるわけではなく、成り行きと運とヒロポンによりテロリストへとなっていく様子と、島崎が起こした事件を国民に知らせないまま極秘に捜査し、解決された後も、島崎の存在とオリンピック妨害未遂の事実を隠蔽した警察の姿勢は、何とも言えない空疎な恐ろしさを感じさせ、他のサスペンスにはない奇妙な味わいを持っている>

臨場感があってハラハラドキドキで読めた。傑作。


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