反乱のボヤージュ
「反乱のボヤージュ」(野沢尚)は、「父親探しの物語であり、子供探しの物語だ」(野沢尚)。シナリオライターらしく構成ががっちりしている。語り手は19歳の医学部学生。寮を廃止しようとする大学側とそれに反対する寮生との対立を軸に、寮という仮想家族の中での連帯と分裂、父に棄てられた過去をもつ主人公と、子供を持つことができなかったがゆえに理想の父親たらんとする男(舎監)の心の交流が細密に描かれている。そして、それと同時にいつも傍観者であった主人公が、単なる傍観者から観察者としての位置へと成長してゆく物語でもある。もう一度ゆっくり読み直したくなる本だ。
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