残虐記
昨日聴いたのは「ソニー・クラーク・トリオ」。このアルバムは全曲ピアノ・トリオのしみじみとした良さを聴かせてくれる。ソニー・ロリンズの「朝日のようにさわやかに」も良いが、こちら(5曲目)は、よりしっとり心に寄り添ってくる。
<ソニー・クラークのアルバムはアメリカではほとんど売れなかった。それどころか名前すら知っている人間も少なかった。その理由を演奏そのものに求める声がある。決して派手でなく、むしろ地味で内向的な演奏がアメリカ人には向いていなかったのだと。バド・パウエルという天才ピアニストはいたが、1950年代当時、ピアニストは一般に“伴奏者”としかみられていなかった。ピアノ、ベース、ドラムスからなるピアノ・トリオに関心を示す人間は少なかった。(「超ブルーノート入門」中山康樹)>
ソニー・ラーク、1963年1月13日。ドラッグの過剰摂取によってニューヨークで他界。享年31歳。このアルバムの録音はその6年前、1957年10月12日。若かったんだなあ。
山本文緒さんよりもっと突き抜けた感のある桐野夏生さんの「残虐記」。さぞや、ドロドロしたエログロの世界が描かれているのだろうと思って読んでみたのだが……。
「小4の女の子が誘拐監禁される」という帯のコピーを読んで、てっきり監禁され残虐な目に遭う話だと思っていたら、解放されて日常に戻ってきてからの方が「残虐」だという話だった。現実より想像の世界の方が残虐だったというお話は小説らしいと言えばらしいのだが、桐野さんにしてはちょっぴりお上品だったかも。
<自分は少女誘拐監禁事件の被害者だったという驚くべき手記を残して、作家が消えた。黒く汚れた男の爪、饐えた臭い、含んだ水の鉄錆の味。性と暴力の気配が満ちる密室で、少女が夜毎に育てた毒の夢と男の欲望とが交錯する。誰にも明かされない真実をめぐって少女に注がれた隠微な視線、幾重にも重なり合った虚構と現実の姿を、独創的なリアリズムを駆使して描出した傑作長編。第17回 柴田錬三郎賞>