澪つくし
「澪つくし 深川通り木戸番小屋」(北原亜以子)
「慶次郎縁側日記」シリーズより、こちらの方が市井の人情物の王道を行く小説で、ややこしくひねくれた過去の傷を抱える人物は登場しない(もっとも主人公夫婦は「ややこしくひねくれた」過去の持ち主なのだが)。 ただ、人の心の奥に潜む闇を鮮やかに切り取って見せる北原さんの「手口」は、舌を巻く。 残暑厳しき昼下がり、風通しの良い部屋に寝転んで読むには最適だ。 慶次郎縁側日記シリーズにも言えることだが本作でも世間でつまはじきにされている人たちへの温かいまなざしがある。
<その木戸番小屋には、ぬくもりとやさしさが満ちている。 江戸・深川、痛みを抱えた人々にそっと寄り添う夫婦がいた。 流れる川音に包まれた江戸・深川澪通りの木戸番小屋に住む笑兵衛(しょうべえ)とお捨(すて)の夫婦。 押しつぶされそうな暮らしを嘆き、ままならない運命に向き合い、挫けそうな心を抱えた人々が、今日もふたりのもとを訪れる。 さりげないやさしさに、誰もが心の張りを取り戻していく。 人生の機微を端正な文章で描く傑作時代短篇集。 >
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