きみ去りし後
「きみ去りしのち」(志水辰夫)は四編それぞれの主人公が、小、中、高、大学だ。だが、いわゆるジュニア小説向きではない。これは大人の物語だ。だからこそ帯には「抒情作品集」とあるのだろう。
<目の前を赤とんぼが横切った。見上げるふりをして叔母の顔を見た。そしてふたたび、見たくなかった顔を見た。叔母はぼくに気づいていなかった。目に涙を浮かべていた。唇を噛みしめていた。無意識に振られている首。瞬き。白くなっている顔。見るのでなかった。ぼくは突然、父を奪っていった女性が誰だったか、そのとき気づいてしまったのだった。(「きみ去りしのち」>
このたたみかける文章が良い。拍手だ。
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