ナラタージュ
島本理生「ナラタージュ」
この人の本は「真綿荘の住人たち」に続いて二冊目だが、なぜこれを選んだかというと、ブログ友達が島本さんの中では「何といってもこれが一番好き」と書いていたのを思い出したからだ。それに、こんな書評にも刺激されて。
<物語の底に隠した感情の襞を、そうして作者は丁寧に、巧みに、そして鮮やかに描き出す。だから、忘れていた熱望を、私たちもまた思いだすのだ。切なくて、哀しい物語だ。美しい物語だ。 (「エンターテインメント作家ファイル108」北上次郎)
大学生のヒロインと高校時代の教師との純愛物語を縦軸に、彼女に思いを寄せる同級生の男子学生との交際や、恋人同士である高校時代からの友人、さらに高校の後輩のエピソードを「丁寧に」描いていく。なかでもヒロインにとって「性」はお互いを「認め合う」行為のはずなのに、交際相手の男子学生にとっては「自分を認めさせる」行為に過ぎないと分かった時、その行為は切なくて、哀しいものになる。そして、主人公の女性より、自分の方をを向いてくれない苛立たしさに無断でヒロインのバッグを漁り、「昔の恋人」の痕跡をみつけようとする男子学生の「ストーカー」まがいの恋慕の情が、哀しい。結構いるんだろうなあ、こういう男。この作品も「巧み」だが、「真綿荘…」の方がもっと細かく丁寧に描いていて私は好きだ。
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