「本のちょっとの話
「本のちょっとの話」 川本三郎
ここ数年、書評というよりデキの悪い読書感想文を数多くブログにアップしているのだが、書いたあとでいつも「これで良いのだろうか、もっと違う視点から書くべきなのでは」と反省しきりである。それなら書かなければ良いのにと思うのだが、半ひきこもり状態の私には、他に書くべきネタがない。そんな私に、「あ、こういう手もあったのか」と教えてくれたのが本書である。
書評の多くが、「小説なら大体のストーリーを書き、作者の意図といったものにそれを添える」本のダイジェストにならざるを得ない。だが、川本さんは「本を読んでいて強く印象に残る細部」が、総論を大事にされる書評の中で抜け落ちることに物足りず、細部にこだわっても良いのではないかと、本書を書いたのだという。
<本好きな知人と「あの本読んだ?」という会話をしているとき、われわれは案外、こういう細部のことを話しているものである。ちょうど映画を見たあと、たとえば「タイタニック」を見たあと、そういえば宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」にタイタニックのエピソードが出てくるよね、と話をするように。>
ただ川本さんが読んだ本、見た映画の数は膨大で、私なぞはその万分の一に達するかどうかぐらいの差がある。物まねを得意とする私が、この川本さんを真似ようと思っても無理がある。だが「総論」でなく「細部」にこだわったものなら、私流のものが書けるかもしれないとちょっぴり前途が明るくなったのは、本書のおかげである。
最後に私が面白く読ませてもらった章(全84章の中から10章を選んだ)のタイトルを挙げておく(別に大した意味があるわけではない。ただ本書について何も書いていないのは気が引けるので)。
「悪習」から「快い」楽しみへ 筒井康隆
丸谷探偵の大胆な仮説 丸谷才一
アメリカの男は恋愛が下手 ジェフ・アボット
スタインベックもドビュッシーも同時代人 河盛好蔵
「近所田舎」房総の海 つげ義春
男のするという立小便を女もまた 太宰治 林芙美子
“江戸のホームズ”半七 岡本綺堂
映画人とホロ・コースト ビリー・ワイルダー フレッド・ジンネマン
エリア・カザンの暗い過去 エリア・カザン
作家の「神経」 永井荷風 太宰治 林芙美子