「問題があります」
佐野洋子「問題があります」の中で、佐野さんが河合隼雄さんと対談したときのことをこう書いている。
<「私が何か言うと男の人がうしろにとびのく様に感じることがある」
と訴えたことがある。
「それは、佐野さんが本当のことを言うからです。みんな本当の事は嫌いなのです。本当の事は言ってはいけません」(中略)
中空の重要性を先生は大事に考えていたと思う。>
佐野さんの本は何冊か読んでいるのだが、どうして面白いのか改めて気がついた。
そう「本当のことを言う」から面白いのだ。
そしてその思い切りの良さと直截的な物言いに、言ってはいけないことか言ってもよいことか常に考えながら生きてきた私としては、「そうですよねっ!」と、ついつい愉快になって笑ってしまうのだ。ところで、河合先生が「大事に考えていた」中空について、佐野さんは理解することがとても困難だったと書いたあとで、急にわかってしまう。
<一週間ぐらい前にわかった。老子を読んだらわかった。
道の働きはなによりもまず 空っぽからはじまる。それはいくら掬(く)んでも掬みつくせない不思議な深い淵とも云えて すべてももののでてくる源のない源だ
その働きは鋭い刃をまるくする
固くもつれたものをほぐし
強い光をやわらげるそして
舞い上がった塵を下におさめる―― (加島祥造「タオ」より)
そういう事でいいんですか、先生、違うかもしれません、わかりません。>
「違うかもしれ」ないが、私もそういうことでいいのだと思った。白状すると「何が本当であるか本当でないかわからない」のだ、私も。蛇足ながら「書物素晴らし 恋せよ乙女」と題した章で、おすすめ五冊の中に私のおすすめと同じ本があった。山田風太郎「人間臨終図巻」。あまり面白くて中元にしたことがあるそうだ。佐野さん、ハグさせてください、もう間に合わないけど