偏読老人の読書ノート

すぐ忘れるので、忘れても良いようにメモ代わりのブログです。

タンノイのエジンバラ

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 昨日読んだのは「タンノイのエジンバラ」長嶋有。

 この人はどこにでもいそうな登場人物の描き方が上手い。「誰にでも書けそうな小説」に思えるが、そう思わせるだけ巧みだということだろう。他人とうまく関われない人たちの哀しみとペーソスを声を張り上げるでもなく淡々と描いていくこの人の小説は、やはり「ハマ」ってしまう。中毒になる作家かもしれない。

<(担当編集者より)なぜか隣家の娘を預かることになった失業中の俺の、ちぐはぐで不思議な一夜を描く表題作。真夜中に実家の金庫を盗むはめになった三姉弟の不器用でおかしなやりとりを描く「夜のあぐら」ほか「バルセロナの印象」「三十歳」を収録。夜の気配と低い体温、静かな笑いを感じさせる、芥川賞受賞後初の作品集。

(WEB本の雑誌 西谷昌子 星4)この短編集の主人公たちは、いつもどこか無気力だ。目の前の出来事が普通と違っても、突っ込もうとせずにただ見ている。そこに微妙な関係が生まれる。「タンノイのエジンバラ」は少女と男の物語。お互いがお互いに対して何もしないのに、何となく影響しあう……そんな関係の心地よさ。しかし家族は本来そんなものではないだろうか。何かをしてあげた、してもらったという関係は、実は薄っぺらいものなのではないかと思わせられる。「夜のあぐら」は父を必死でつなぎとめようとする姉と、姉に流される弟妹の物語。一生懸命になる姉、冷めていて姉をなだめる弟、そして緩衝材になっている妹。そんな関係がごく自然に描かれていて巧い。「バルセロナの印象」は姉を慰めるための旅行の物語。ホテルの部屋を2対1で回していくとき、いろいろな関係が生まれるのが面白い。「三十歳」は不倫で職を変えた女性の物語。若い男と本気にならない関係を持った後、初めて泣ける……こんな描き方をできる人は稀だろう。>

同感!

 



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