晴読雨読のころは(17)
山本文緒 「再婚生活」
再婚とほぼ同時期にうつ病になり、その闘病記と王子(ご主人のことをこう呼んでいる)とのちょっと変わった生活の記録だが、何と表現したら良いか戸惑ってしまう。私も二十代の初めに一年近くうつ病(山本さんとは症状が違うが)で通院したことがあるのだが、その時ほとんどの時間そばにいてくれたのがうちの奥さんだ。そんなわけでとても他人事とは思えず読みふけってしまった。だが、こういう日記が果たして多くの人に受け入れられるかと言うと「?」とならざるを得ない。もっと言えばわざわざ本にすることもないのにというのが正直な感想だ。それにしても作家になる人は繊細だ。
山田風太郎 「コレデオシマイ」
思わずくすくす笑いながら読み進んでいくうち、一度読んでいたことに気がついた。だが、やはり面白くてついつい頬がゆるんでしまう。帯のキャッチコピーも山田風太郎さんらしい。
<やりたくないことはやらないの」という戦後派天才老人・山田風太郎が、その独自の横着人生哲学を披瀝しつつ、食について、死について、日本について、尊敬する文士や歴史上の人物について、縦横に語る、最初にして最後、興趣尽きせぬ、極上の人生論!>
老婆心ながら言っておくと決して「横着」ではない文学論、人間論だ。それにしても「やりたくないことはやらない」と声を大にして言ってみたいものだ。ま、あまり大きい声で言える言葉ではないが。
川上弘美 「ニシノユキヒコの恋と冒険」
いつも思うのだが、私には女心というものが未だに分からない。だから川上さんが描くところのモテる男ニシノユキヒコがどうしてモテるのか良く分からない。
「女には一もニもなく優しい。姿良しセックスよし。女に関して懲りることを知らない。
だけど最後には必ず去られてしまう」
という人物の造形が現実的ではないからかもしれない。ま、恋愛そのものが現実的でないところから始まるのだから仕方がないのかもしれないが。そんなわけで感情移入できないまま読み進んだのだが、さすがは川上さん、最後の章「水銀体温計」で見事にきちっと締めてくれた。