バッド・ルーテナント(’09/米) 

*現在、劇場にて上映中*

<ものがたり>
かつて観光で賑わっていたニュー・オーリンズだったが、ハリケーン・カトリーナによる多大な被害で街は荒廃していた。刑事テレンス(ニコラス・ケイジ)は、気まぐれで囚人を助けたことでルーテナント-警部補-に昇進したが、その時の怪我がもとで一生腰の痛みを引きずる運命を背負う。痛み止めでは飽き足らず、もともと倫理観の低いテレンスは自然にドラッグに手を出していった。娼婦(エヴァ・メンデス)に貢ぎ、博打で負け続けて金も不足し、たがが外れた彼は、押収された証拠品に手を出し、路上で取調べと称してカツアゲを繰り返していた。そんなある日、不法移民の一家が惨殺される事件が起きる。捜査責任者となったテレンスは、事件の裏に地元の麻薬組織が絡んでいるとにらみ…。

ハーヴェイ・カイテル主演、アベル・フェラーラ監督『バッド・ルーテナント 刑事とドラッグとキリスト』(’92/米)のリメイク…のはずだが、オリジナルがむせ返るような背徳的な雰囲気に満ち満ちていた問題作だったのに対し、どこをどうやったらこんな能天気なハイテンションコメディになるのか甚だ不思議。いやー、
ニコラス・ケイジ主演作にハズレ無し!!!
(注:スットコとして) 
存分に楽しませてもらいましたよ!!! 以下、全部が全部こんな感じ。

まず、ケイジ君は常にドラッグでキメキメのラリパー状態。一昔前のソフトスーツ(?)に、デカいハジキはガンベルトじゃなくて、ズボンの前側で普通のベルトに挟んでるんで見え見え。それで余計に着こなしがだらしなく見えるせいか、その挙動不審なテンションの高さは、ヤク中というよりも新橋辺りの酔っ払いリーマンにしか見えない!!! 髪型もヘンだし。

悪徳警官とは間違いで、悪いのは頭なんじゃないかという感じのケイジ君なので、どんなに悪行を重ねてもギャグにしか見えないという致命的な演出。しかも「ラリってるってのはこういうもんだぜ!」と本人が思ってるのかどうかは知らないが(多分思ってるはず)、そのオーバーアクトっぷりでケイジ君以外がみんな名優に見えるというすごい状況に。

懇意にしているノミ屋からスピード違反の取り消しを頼まれ、なぜか事故現場まで足を運ぶケイジ君の前に横たわるのは車に轢かれたデカいワニ<内臓露出。そこで別のワニがケイジ君を遠くから凝視…でもワニ目線じゃなくてワニの後ろにいる人目線というわけのわかんなさ。

署内では不思議なことに優れた刑事と思われていたケイジ君だったが、いろいろと不祥事を起こし(でもカツアゲとドラッグ使用以外w)、とうとう懲罰…になったら大喜び!なぜならそれは憧れの証拠品倉庫管理だったから!!!(笑) 天にも昇る気持ちでドラッグをかすめとるケイジ君。だがそうそう上手いことばっかりはいかず、大物の用心棒3人に脅されて金を要求されるんだけど、このチンピラの人質がエヴァ・メンデスと犬。しかしこのゴールデンリトリーバーが満面の笑顔のため、結果的に大爆笑のシーンとなっている。w

全体的に演出も妙なことになっていて、これから盛り上がる!って時に必ずシーン変更。どれもこれも肩透かしで終わる辺りが、えもいわれぬスットコ感を醸し出しているのである。特に実家でケイジ君がメンデスに昔語りをするところのブチ切り具合が凄い。しかもここは最後に感動的なシーンとつながるんだけど、これがまた「んなわきゃねーだろ!!!」とツッコミ度180%間違い無しで大サービス。<?

しかし何といっても特筆すべきはイグアナ。これはぜひ観ていただきたいのだが、ここまでイグアナの無我の境地と俳優のスットコ具合が絶妙に配置されたシーンは無かったのでは!!!と力強く思わずにはいられない、この作品一番の見所と言えましょう。 

他にも、「魂が踊ってる」という台詞で、死人がほんとに踊ってたりして(しかもブレイクダンス)、『ディパーテッド』でほんとにネズミが出てきたシーンを彷彿とさせました。人間、名匠になるとかくも素直に表現するんだろうか。<と好意的に解釈

しかしそんな凄すぎる数え切れないスットコ攻撃にあった末、最終的な大オチがこれまた破壊度最大級。今まで観てきたものは何だったんだろう?もしかしてここだけ『食堂かたつむり』のフィルムとすり替わってるんじゃなかろうかというぐらいの急転直下(というのか?)のエンディングで、観客の思考回路は怒涛のように混乱するのであった。

完