筑波大学附属駒場中・高等学校から東京大学に進学し、オンライン読書教育サービス「ヨンデミーオンライン」を提供する株式会社Yondemyを起業した笹沼颯太さん。笹沼さんの中学受験や中学・高校での経験とそこから得られたもの、起業への思いを聞きました。日経ムック『中学受験を考えたらまず読む本 2025年版』から抜粋・再構成。
株式会社Yondemy代表取締役
両親のサポートで自然と勉強に夢中に
中学受験塾に通い始めたのは、小4の夏休みのときでした。当時は中学受験を考えていたわけではなく、両親の「とりあえず塾に行ってみたら?」という勧めもあり、地元密着の塾の夏期講習から通い始めました。志望校についても考えておらず、塾に通って勉強していたら成績も上がったため、自然な流れで筑駒(筑波大学附属駒場中学校)をめざすことになりました。
地元密着の塾では、私の実力に合わせて指導してくれたり、問題が解けていれば宿題を出さなかったりする良い先生ばかりだったので、勉強もどんどん好きになっていきました。家でも両親が私に勉強を強いることはなく、算数を教えてくれたり、解説文が理解できないときは説明してくれたりと、勉強がもっと楽しくなるようにサポートしてくれました。
自分らしいリーダー像を発見
筑駒に入学すると、当たり前のように英語が話せたり、科学オリンピックに出場していたりするような優秀な生徒がたくさんいました。さらに、入学する生徒の約7割は同じ大手塾の出身で、入学初日からそのグループで集まって楽しそうにしているのを見て、疎外感も含めて挫折を感じていました。
ただ、その挫折感を克服しようとは考えずに、戦う土俵を変えていくことを意識するようにしました。例えば、音楽祭のピアノ伴奏者を買ってでたり、文化祭の演劇に出演したりするなど、勉強以外の分野をかけ算することによって、唯一無二の自分になることをめざしていきました。
高3の文化祭も自分にとって大きな経験でした。文化祭では、高3のみステージや喫茶、コントなどの班に分かれての活動になりますが、私は屋外ステージのタイムテーブルを組んで企画を実施するステージ班を担当し、そのなかの一つの企画を統括するリーダーを任されました。私自身、支える方が向いていると思っていましたが、企画会議やスケジュールなどの調整、他の人の長所を生かしていくうちに、「こんなリーダーでもいいんだ」ということを、身をもって体感しました。
英語を得意教科に変えた英語塾
大学受験では、同学年の約7割の生徒が東大をめざしていて、私もその一人でした。まわりの生徒が大手塾で勉強するなか、私は単語や文法は覚えずにひたすら英語の本を読む、英語多読を専門とする塾に通っていました。というのも、もともと英語がとても苦手で、中3時の学力の順位は下から数えたほうが早いくらいでした。そのことを心配した友達が「本が好きなんだし、この塾なら苦手な暗記をすることもないよ」と誘ってくれたのです。
その塾で英語を3年間勉強したところ、高3で受けたTOEICでは970点を取れるようになっていました。また、学年順位も文系のなかではずっと1位を取ることができました。
子どもが本を読むようになる仕組み作り
東大に入った当初は起業をする気はまったくなく、公認会計士の勉強をしていました。そんなとき、筑駒時代からの友達の誘いがきっかけで、一緒にビジネスコンテストに参加することになったのです。
さまざま考えたアイデアのなかには「英語多読」を生かしたアイデアもありました。なぜこのアイデアが出たかというと、一緒に参加した2人の友達も私と同じく筑駒→東大組で英語の塾も一緒に通っていたのですが、大学に入ってからもその塾で講師として英語多読の指導をしていたからです。そんなことから、私を含めた3人で、英語多読を参考に日本の子どもに向けた読書サービスを運営する株式会社Yondemyを起業することになりました。
当時、家庭教師のアルバイトもするなかで、多くの子どもたちが本を読まない、国語ができない、教科書が難しくて読めないという現状を知っていました。そんな課題の解決に向けて「子どもが本を読むようになる仕組み」を作ろうと思ったことも起業の動機の一つです。
これまで、Yondemyのサービスを累計1万5000人の方に使っていただきました。実際に使った方からは、「本をテーマに親子の会話が増えた」「本を好きになって自分から学んでくれるので、子育てに焦りがなくなった」などの声をいただいています。今後は、子どもたちが本を読んで、学んでいくことを自然に好きになると同時に、親御さんもそんな姿を見て安心できる新しい教育のあり方を作っていきたいと思っています。
取材・文/三井悠貴(カラビナ)
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