映画、ドラマやテレビの撮影現場でヌードや性的なシーンの撮影をサポートするインティマシー・コーディネーターとして活躍する浅田智穂さん。本を読む時間を取るのが難しいなかで、どのように本に向き合っているのかを聞きました。
1回目「 日本初のインティマシー・コーディネーター、浅田智穂を更新する本
2回目「 インティマシー・コーディネーター浅田智穂 性やジェンダーを学ぶ本 」から読む。

「調べものも、紙から取り⼊れるほうが、頭に定着するような気がしています」
「調べものも、紙から取り⼊れるほうが、頭に定着するような気がしています」
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浅田智穂(あさだ・ちほ)
1998年ノースカロライナ州立芸術大学卒業。帰国後、東京国際映画祭や日米合作映画『THE JUON/呪怨』、舞台『レ・ミゼラブル』などで通訳を務める。2020年Intimacy Professionals Association(IPA)のインティマシー・コーディネーター養成プログラムを修了し、IPA公認の下で活動を開始。Netflix『彼女』に日本初のインティマシー・コーディネーターとして参加。以後映画『怪物』、ドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』(フジテレビ系列)、『大奥』(NHK)などに参加している。2024年から日本でインティマシー・コーディネーターを育成するトレーニングプログラムも開始。

本は紙で読んだ方が頭に定着する気がする

 インティマシー・コーディネーター(以下、IC)を導入する作品が増えたこともあり、いかにして本を読む時間を捻出するかが目下の悩みです。以前は、書店で装丁がすてきな本などを直感で選ぶことも多かったのですが、近ごろは仕事仲間や、信頼できる友人などのお薦めを読むことが多いです。

 ⾃宅に「積ん読」状態の本もたまっていますが、それでも本は電⼦書籍ではなく、紙で読むことにこだわっています。紙の本を持ち歩いていて、本がスタッフや俳優さんたちとの会話のきっかけになり、話が弾んだこともあります。インターネットで何でも情報収集できる時代ですが、私の場合は調べものにしても、知識を得るにしても、紙から取り⼊れるほうが、頭に定着するような気がしています。

 本や雑誌はきれいに読みたいタイプなので、帯も外しませんし、線を引いたり、付箋を貼ったりもしません。少しずつ読むのもどちらかというと苦手なタイプで、読み出したら一気に読み切りたいです。

 忙しくて時間が取れないから、一気に読み切れるものを選んでしまっているのかもしれませんが、最近は短編集やエッセー集を読むことが多いです。黒柳徹子さんの『 トットの欠落帖 』(新潮文庫)もその一つです。『 窓ぎわのトットちゃん 』(講談社)の劇場アニメ作品が公開された時に、原作を数十年ぶりに読み返し、他にも黒柳徹⼦さんの作品を読みたくなり、『トットの⽋落帖』を⼿に取りました。彼女の人間味のあふれるエピソードに、電車の中で笑いをこらえるのが大変だったこともあります。ちょっとエッジが効いているけれどリアルで、かつ読みやすい⽂体が好きなので、黒柳徹⼦さんのほか、吉本ばななさんも昔から⼤好きな作家さんです。

『トットの欠落帖』(黒柳徹子著、新潮文庫)/画像クリックでAmazonページへ
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 脚本家の坂元裕二さんの『 往復書簡 初恋と不倫 』(リトル・モア)は、娘が幼稚園に入園して、やっと本を読む時間が少しできた時に手に取った1冊です。坂元さんが手掛けた朗読劇2編を書籍化したもので、登場人物のメールや手紙などのやりとりで構成した往復書簡集です。セリフ回しがシンプルなのに、独特で、さすが坂元裕二さんだなとうなってしまいます。登場人物や情景を思い描きながら、何度も読み返しています。

『往復書簡 初恋と不倫』(坂元裕二著、リトル・モア)。画像クリックでAmazonページへ
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人文学・社会学関係の本を意識して読みたい

 あまりにも忙しくて、いつになったら好きな本をゆっくり読む時間が取れるのだろうと思いますが、できるだけ仕事の役に立ち、知識を得られる本に触れたいです。今回取り上げた2冊のような小説やエッセー、フィクションも好きですが、今後はICの仕事に直接つながる人文学・社会学関係の本をこれまで以上に意識して読むようにしたいです。ICの仕事は毎回新しいことばかりです。より良いICになるためにはどうすればいいか、少しでも勉強しなくてはという気持ちです。

 これまで⽇本では、私の知っている限り、資格を保持しているICは⻄⼭ももこさんと私の2⼈しかいなかったのですが、最近新たに、アメリカのトレーニング機関とライセンス契約をし、私がトレーニングした2⼈が認定されました。ICとして読むべき本はトレーニングカリキュラムで指定されており、それらを読むことは必須です。⽇々の⽣活や映像作品を⾒た時、本を読んだ時に、他の⼈の気持ち、合意、⼈権などについて、⾃分ならどうするか、どう思うかを考えることもICとして大切だと思います。

 ⼤前提としてICは映画や映像作品が好きな人が多いと思います。私がICをやっている理由も、映画が好きだからということに尽きます。⼈権を守る、という目的なら、仕事の選択肢は他にもあるかもしれませんが、私はやはりいい作品を作りたいという気持ちがあり、そこにICとして関わることができるのが最⼤の喜びです。なかなか仕事が楽にならない、価値観が異なる⼈々との議論は⾻が折れるものだとしても、⼀丸となって良い作品を作るために役⽴てることがとても楽しいんです。

 新たにICになった⼈たちやICを⽬指す⼈には、それぞれが情熱を持って⾒ている、読んでいる作品があればいいなと思います。若い⼈たちから、私が知らない作品を教えてもらうことも頻繁にありますし、後輩たちからも刺激を受けています。

取材・文/真貝友香 構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集) 写真/鈴木愛子