「配属ガチャ」は、気にするなと言われても気になってしまうもの。意に沿わない配属は、早期退職のきっかけにもなり得る。でもその前に、会社がどのように配属を決めているのか、その仕組みを考えてみても損はないはずだ。そんな「配属ガチャ」に悩んだ時に知っておいてほしいことを、『生きづらい時代のキャリアデザインの教科書』(大垣尚司著、日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けする。

会社の選び方はどう変わっていくのか

 まず最初に、どんな会社を選ぶべきかだが、結論は、以前に比べればそんなに深刻に考える必要はないということだ。

 もし、これを読んでいる人が一流大学の学生で成績もそこそこの「意識高い系」であれば、自分がめざしている会社や仕事が明確にあるはずだからそれに従っておけばよい。
 突き放すようだが、正答がある話ではないので、自分の考えで動いてその結果に対してまた自分で対応していくことが一番大切だからだ。

 しかし、ほとんどの学生は、どの会社に行けばよいかと言われても率直なところよく分からないのではないだろうか。ともかくもよさそうに見えるところにエントリーシートを出して、多くて数回の短い面接で内定が決まったりだめだったりする。
 不安の毎日のなかでともかくも内定が出たところの中で自分なりに良さそうなところに決める。今でも、そういう偶然というか、「ナリユキ」と言ったほうがよいような流れのなかで就職先が決まる。
 そういう意味では昔とそんなに変わらないが、違うのはそのあとだ。

 メンバーシップ型が主流だった頃は、一度入った会社を辞めることに伴うデメリットが非常に大きかった。だから、就職先が恐ろしく短期間に「エイヤッ」で決まるにもかかわらず、それで人生が決まってしまっていた。
 しかし、最近はそもそも会社の側が終身雇用を否定しているわけだから、転職に伴うデメリットは確実に減少している。

入社後すぐ転職、は何が問題なのか

 それじゃ、最初の配属先が面白くなければすぐ転職を考えたほうがよいかというとそうではない。
 日本的ジョブ型は、純粋なジョブ型と違って新卒を一括して採用するため、最初の数年は昔のメンバーシップ型と同様、教育期間になっている。
 この期間は人事部的に言うと、よほど特異な才能や専門性がすでにあるといった事情がない限り「社内の各部署に新人の教育を委ねるとともに明確な向き不向き(特に不向き)があればフィードバックしてもらう」というぐらいの位置付けでしかない。

 だから、新人の配属先はサイコロを振って決めているとしか思えないようなやり方で決めて、比較的短期間で何度かローテーションをして社会人としての基礎的な知識や経験を学ばせていく。
 そして、この過程が終わったところから、何となく組織にコミットしてキャリアパスを上がるメンバーシップ路線と、ジョブを磨くために必要に応じて職場は変えていくジョブ路線とに分かれていくのである。
 だから、最初の配属先で自分が会社にどう評価されているかを推し量ることは無意味である。

 忙しい花形の部署に配属されると新人はお荷物として放置されるか、その中の総務課のような地味な仕事をするところに置いてもらえるだけだったりする。
 一方で、地方支店に配属されて「最初から島流しか」と思っていると、案外のんびり丁寧に仕事の基礎を学べたりもするのである。

会社側からみた「配属ガチャ」

 最近は、配属ガチャという言葉があるらしい。要するに会社・配属・仕事内容に「アタリ」と「ハズレ」があるということだ。ただ、これって今に始まった話ではない。わたしが新入社員の頃はガチャこそなかったが、「サイコロを振って決める」という表現があった。

 まず、読者が人事部に配属された若手だとして、上司から同期採用した大量の新人をどこに割り振るかについて、原案を明日までに作れと言われたらどうやってやることになるかを想像してみてほしい。

 もともと、ほぼ全員がせいぜい延べ1時間にも満たない面接に基づいて採用を決めた仕事の経験がない学生だ。それぞれの顔すら思い浮かばないし、どんな名前の部署に配属しようが、「ド素人」の新人がやれることに大きな差があるわけでもない。
 そもそも新人教育はめんどうだから「新人を受け入れてくれる部署」というのはある程度決まっていて、業務内容や勤務地による優劣はない。

 そんなわけで、一応の理由付けはするだろうけど、ハズレもないがアタリもないのである。
 もちろん、東大を出たエリートもいれば、アホでも厚遇せねばならない社長の息子もいるだろうし、取引先関係の「人質」もいるから、全員ガチャで決めるわけではないが、ほとんどはそうだ。

「配属ガチャ」に悩む若者たち(写真:K+K/stock.adobe.com)
「配属ガチャ」に悩む若者たち(写真:K+K/stock.adobe.com)
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だからこそ、自分から腐るのはあまり賢くない

 ただ、気をつけたほうがよいことがある。
 会社は学校ではない。そもそも、お金をもらって仕事をしているのにさせられることがハズレだとか赴任地が気に食わないと言って腐るような若手は使いづらいし、そういう発想の人は「アタリ」に配属しても結局文句を言って腐ることが多い。
 昔はそれではその人が損をするので無理矢理育てようとしたが、ハラスメントだと言われると確実に上司にペケがつく昨今はそういうことはまずない。表面上は非常に優しく丁寧に接してくれて、音もなく「使えない」というフラグが立つだけである。

 一方、文句を言ったり腐ったりする人よりは、何でもがんばる人のほうが使いやすいから、そういう人には自然と仕事が回るようになるし、お金儲(もう)けの場ではそれが合理的でもある。
 仕事は学校の勉強と違って、やってみて学ぶしかない。どんなに簡単そうでも目の前の仕事に真摯に取り組む人は必ず成長して、より難しい仕事をやらせてもらえるようになる。

 このように、最近は、自分で育たないと育ちにくい環境になっていることから、自分から腐るのはあまり賢くないということだ。

 一方、がんばってはいるが向いてないと現場の上司からフィードバックがあれば、次の異動では向いていそうなところに配属替えする。よほど採用プロセスに問題がない限り、1、2回配置換えをすれば少なくとも会社としては適切と思われる部署がみつかる。
 こうしてみると、ある意味で人事部が適性のチェックを最初の配属先にアウトソースしているとも言える。

 以上からすると、SNSに拡散する就職ガチャ論議に乗っかって、ハズレだと思って腐ったり転職を考えたりする人は、使いづらい新人にフラグを立て、あわよくば転職してもらって自然淘汰を狙う(あるいは、それで仕方ないかなと割り切っている)会社側の計略にまんまとひっかかっている可能性がある。
 大企業については、よほどブラックでない限り、入社後3年の間に動くのはあんまり賢くないかもとわたしが思う背景にはそういうこともある。

7年たったら自分の値段を確かめる

 それじゃ、新卒一括採用後全員がメンバーシップ型の状態である期間はどのくらいかというと、だいたい7年ぐらいと思っておくとよい。会社がそう思っているわけではないが、みなさんはそう思っておいたほうがよいということだ。

 ここで初めて、そのままメンバーシップ路線で行くか、ジョブ型路線で行くかを考える(そこで分からなければまだ決めずに先送りしてよい)。それより前にジョブ型に絞り込もうとしてもさすがに知識や経験が少なすぎる一方、2、3ポジションローテーションをさせてもらえば、その会社でメンバーシップ路線に乗って上に昇っていきたいかどうかが分かってくるからである。

 このあたりでスカウト型の転職エージェントにレジュメ(履歴書)を預けて自分の値段を確かめてみてもよいだろう。会社の中の評価だけだと自分の客観的な価値がよく分からないからだ。7年ぐらいしてもし絞り込むジョブが見えてきたなら、本腰を入れてこれを磨けばよい。そのために転職が必要ならすればよいし、そのまま磨けるならそのままいればよいわけである。

今はだれでも、人生の戦略を持つべき時代です。経済成長が見込まれないなか、幸せの基準が「お金」だけなのはむしろ賢くない。会社や世間に騙(だま)されないためには、その裏側を知っておく必要がある。自分で自分の身を守るための、革新的なキャリアの考え方をお伝えします。

大垣尚司著/日本経済新聞出版/1980円(税込み)