「股関節をほぐせば走るスピードがアップする」という話を聞いたことがあるでしょうか? 書籍『すごい股関節 柔らかさ・なめらかさ・動かしやすさをつくる』を出版した、日本を代表するフィジカルトレーナーである中野ジェームズさんによると、股関節の状態がスポーツのパフォーマンスに大きく影響することがあるそうです。動画付きで解説します。(日経Goodayより転載 第2回)

股関節の状態が悪いとパフォーマンスが落ちる

 スポーツ中継を見ていると、「この選手は股関節が柔らかく使えていますね」と解説者がコメントすることがあります。これは、選手が180°開脚できるような柔軟性があるという意味ではなく、「股関節をうまく(機能的に)使えている」ということを表現していると思います。

 ジャンプして着地したり、足を前に出して踏み込んだりするとき、足には体重の何倍もの衝撃がかかります。この衝撃は足関節から膝関節、そして股関節へと順番に伝わっていきます。

 股関節に衝撃が伝わったとき、その股関節は同時に上半身の重みにも耐えています。股関節をうまく使えているということは、上下からの負荷を股関節で柔らかく吸収しつつ、骨盤をグッと安定させることができるのです。すると、体があまりブレないので、スムーズに次の動作に移れる。スポーツ中継でいわれているのは、このような股関節の使い方でしょう。

 もし、股関節がうまく使えていない場合は、上下から来る衝撃を受け止められず、よろけたり、転倒したりしてしまいます。

 長距離ランナーは、股関節がうまく動かないとパフォーマンスが低下します。ここでいう「うまく動かない」とは、ふだんの生活では問題がなくても、走るときに機能的に使えていないという状態です。

 影響が出やすいのは、脚のストライドを広くしようとするタイミングです。「ここでスピードを上げよう」と思っても、股関節がうまく動かなかったり、痛みや違和感があると、それだけで持てる力の6~7割程度しか出せなくなるのです。

 股関節をうまく使うことは、アスリートだけでなく一般の人でも重要です。股関節が機能不全に陥っていたら、日常生活の動作もスムーズにはできず、つまずいたり転んだりすることもあります。

 スポーツをしている方でも、一般の方でも、股関節の状態をどうすれば確認できるでしょうか。こちらの動画を見てください。

アセスメント
※正面から見た映像と斜めから見た映像をお届けします

 これは、股関節の状態を確認するための「アセスメント」です。椅子の前に立ち、片脚を後ろに引いてしゃがみ、その状態から一気に立ち上がるとともに、足を椅子の上にのせます。これが「屈曲・伸展」のアセスメントです(屈曲とは股関節を曲げて太ももを上体に近づける動き、伸展とは股関節を伸ばして脚を後ろへ持っていく動きのこと)。

 アセスメントにはもう一種類「回旋」があります。やり方は途中までは同じで、立ち上がるときに脚を付け根からぐるっと回します(回旋とは、太ももを外側にひねる「外旋」という動きと、太ももを内側にひねる「内旋」とを合わせたもの)。

 このアセスメントを、3回程度続けて問題なく行えたら、あなたの股関節は機能的に問題ないという目安になります。スポーツをやっている方なら、10回程度は続けてやりたいところですね。

体幹を連動させる体の使い方を覚えさせる

 もし、このアセスメントをやっている途中で、ふらついたり、違和感があったり、引っかかりを感じたりして、3回続けてやることが難しい場合、股関節に何らかの問題が生じているかもしれません。

 スポーツをやっている方でも、アセスメントが10回も続かないという場合は、股関節の状態を良くする余地があるといえます。

 それでは、どうすれば股関節の状態を良くすることができるでしょうか。普段あまり運動しないという方であれば、先ほどのアセスメントがそのままトレーニングとして活用できます。椅子の前にしゃがむときに鼠径(そけい)部をしっかり伸ばし、ストレッチしましょう。立ち上がるときには、さまざまな筋肉を連動させて股関節を動かすことを体に覚えさせることができます。

 アセスメントが3回なら続けて楽々できるようになったけれども、10回はなかなか……という方は、さらなるパフォーマンスアップを求めて、「レッグサークル」に取り組んでみてください。

レッグサークル
※正面から見た映像と斜めから見た映像をお届けします

 あお向けになり、片脚もしくは両脚を持ち上げて回します。寝転んでやるので、持ち上げた脚の重さが股関節にかかってきます。レッグサークルはレベル1からレベル4まであります。上の段階へ行くほど強度が高くなりますので、うまくできないなと思ったらレベルを下げてやってみてください。

 ポイントは、脚を回しているときに肩が浮かないようにすること。そのためには、体幹を使ってしっかり体を支えなければなりません。つまり、このレッグサークルは、体幹を鍛えるトレーニングでもあるのです。

 体幹をしっかり使って体を支えることができれば、股関節への負荷は抑えられます。これはスポーツだけでなく、日常生活でも当てはまることです。レッグサークルなどのトレーニングによって体幹を鍛え、下半身の動きと連動できるようになれば、股関節の違和感や痛みを予防することにつながるでしょう。

股関節の状態が体のパフォーマンスを左右する(写真:pierluigipalazzi/stock.adobe.com)
股関節の状態が体のパフォーマンスを左右する(写真:pierluigipalazzi/stock.adobe.com)

日経Gooday(グッデイ) 2024年11月18日付の記事を転載/情報は掲載時点のものです]

中野ジェームズ修一著『すごい股関節』(日経BP)
中野ジェームズ修一著『すごい股関節』(日経BP)
なかなか治らない腰痛、歩いたときの脚の違和感・こわばり、体の柔軟性不足、姿勢の悪さ……これらの悩み、原因は「股関節」にあるかもしれません。人は股関節から老いていく。そう言っても過言ではありません。一方で、「股関節ほどすごい関節はない」と著者の中野ジェームズ修一さんは断言します。股関節のしくみを理解すれば、どのような運動をすればよいかがわかり、自分で自分の体をよくしていくことが可能です。オリンピック選手やメダリスト、青山学院大学駅伝チームなどのトップアスリートから信頼され、一般の生活習慣病・ロコモ対策も指導する、日本を代表するトレーナーである著者が、実際に現場で行っているメソッドを余すことなく紹介します。

中野ジェームズ修一著、日経BP、1760円(税込み)